家のために犠牲になる自分を『財産目当ての浅はかな女』と言い切る彼女の姿はあまりにも切ない。と同時に、清香の持つ高潔さに志弦は深く胸を打たれた。
(この子は自分を飾り立てない。よく見せようと偽ったりもしない。だからこそ、これほど美しいのだろうな)

 かすかに震える背中を抱き締めたいという衝動に思わず手をのばしかけたが、すんでのところで指を折る。
 覚悟もなくそんなことをしても、彼女の健気な決意を踏みにじるだけ。流されるままに生きている自分が清香にふさわしいとはとても思えなかった。
(やっぱり俺には高嶺の花なのかもしれない)
 清香と初めて会った頃のことを思い出す。

***

 祖父、源蔵が亡くなった数週間後。なにを思ったのか、志弦はふらりと尾野美術館に足を運んだ。源蔵の死を悼むこともせず、権力争いに夢中になっている身内と会社関係者にうんざりして、とにかくひとりになりたかったのだ。尾野美術館を選んだのに、深い理由はない。立地のよさと庭園があるからという程度だ。