円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
閑話 レオンの恋
 騎士団の体験訓練が終わった翌日、指導官だったレオンも「お疲れ休み」だったこの日、わたしはさっそく兄に頼んで噂のマリアンヌちゃんのお店に来ていた。

 路地裏にある住居兼店舗の小さな建物で、ショーケースには美味しそうな焼き菓子が並んでいる。

 マリアンヌはライトブラウンの艶やかな髪にエメラルドの瞳をキラキラ輝かせている笑顔の可愛らしい人で、こんな素敵な女性なら、さぞやモテモテな恋愛遍歴があるのではないかと勘繰ってしまったけれど、接客するようになったのは今年に入ってからで、それまではおばあさまがお店に立っていたらしい。

 マリアンヌにあれこれ質問すると、こちらが下世話なことを勘繰っているなど疑いもしていない様子で素直に何でも答えてくれた。

 祖母が…と聞いて、ようやく思い出した。
 ここ、きっと「おばあちゃんのマカロン」のお店だわ!

 実際にお店には来たことがなかったけれど、子供の頃に好きでよく食べていたマカロンがあった。
 お母さまが作ったの?と聞いたら、城下町でおばあちゃんがやっているお菓子屋さんで買ったものだと母に言われて、それ以来「おばあちゃんのマカロンが食べたい!」とよくせがんでいた記憶がある。

 さっそくマカロンを購入してカフェスペースでいただくと、あの頃と同じ味がした。
「変わってないのね、おばあちゃんのマカロンと同じだわ。すごく美味しい」
 
 思わずつぶやくと、マリアンヌがとても嬉しそうに笑った。
「わたしの両親は早くに他界していて祖母が親代わりなんです。高等学院を卒業してからは祖母の元でお菓子作りの修行をしてまして、祖母の味に近づけるように丸2年、朝から晩までほぼ厨房に籠っていたんです。祖母と同じ味だとお客様に言っていただけるのが何よりのご褒美です」

 目を潤ませはじめたマリアンヌの手を握った。
「こちらこそありがとうございます。おばあさまの味を守ってくれて。……それで、おばあさまは?」

「はい、高齢を理由に今は表には出てきませんが、厨房の方で今でも毎朝手伝ってもらっています。まだまだね、ってダメ出しされることもしょっちゅうです」

 あらよかったわ、ご健在なのね。

< 62 / 182 >

この作品をシェア

pagetop