【短】甘く溺れるように殺される。

口の端にだけ、落ちる接吻。


それは、出口の見えない愛の儀式の始まり。


「虹子…虹子…」


熱に浮かされるように、名前を呼ばれるとそれだけで陥落してしまう、脆い私の感情。

肌を伝う雫はどちらのモノか、もう何度もこうして背徳感に支配れた行為を重ねているのに、分からなくなる。


「こう、じ…っ」


私も負けじと声を上げるけれど、それは嬌声と化して、殆どまともな言葉にはならない…。


生理的に目尻に溜まっていく、涙を彼の舌が艶かしく掬い取って、愛しげに微笑まれた。


ね、最近接吻が少しずつズレている事に気付いてる?


それを聞きたいけれど…。

私からそれを口にしたら、最後になりそうで怖くて聞けないでいた。




私、綾瀬虹子(あやせななえ)は、ファイナンシャルプランナーとして、働き出して既に四年目になる。

F.Pの仕事は、かなりやり甲斐がある。
やっと一人前として認められ、私は主にOJTもしている立場だ。

新人育成は、大変な事も多い。
仕事のフォローは勿論の事、きちんとしたそれなりのメンタルケアもしなければならない。

社内にはメンタルヘルス専門の人間もいるけれど、大体がその場に居合わせている、私の元にその役が回ってる。


「綾瀬さん、ちょっといい?」


今日も、カチッとしたパンツスタイルのスーツに身を包み、せっせと仕事をこなしていたら、上司の鷹野晃司(たかのこうじ)に声を掛けられた。


今年42歳となる彼は体躯も顔も何もかもが奇跡としか言いようがない程、若々しい。


自分の年齢を考えても、あまり変わりがないような気がするけれど…。


それは、敢えて言わなくとも他の誰もが認めている。


……また、か。


私はこっそりと心の中で溜息を吐いた。


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