妖怪ホテルと加齢臭問題(天音と久遠)

スパイスと加齢臭


天音は、
玄関前のロビーのソファーで、
ぐたっと、体を沈めるように座っていた。

本当に疲れた・・・
目を閉じると・・・

「カレイシュウ」
という単語が、脳内をかけめぐる。

「天音ちゃん、天音ちゃん」
顔を上げると、
久遠が、ニコッと笑って、
よれよれTシャツ・ジーンズ姿で、目の前に立っていた。

「あ、あ、タカハラ様、
お食事をなさいますか?」

「うん、そうだね。
腹減ったな」

時計を見ると、11時30分だ。
天音が、急いで立ち上がると、

「俺が持ってきたマサラティー、作るわ。
一緒に、ご飯食べよう」

ご飯はある。
レトルトカレーのパックもある。

久遠は、サッサと厨房に入り、
冷蔵庫を開けた。

「ミルクもらうよ」
鍋にミルクを沸かし、
緑色の小さな粒を、いくつか入れた。

「それって・・何ですか?」
天音が、興味深々で聞くと

「カルダモン・・
これが大事なんだ」
久遠は楽し気に答えた。

「シナモン、クローブ、ジンジャー・・・
俺、好きなんだよね」

久遠は、歌うように、
鍋にスパイスを、放り投げていく。

スパイスの臭いが、湯気と共に
立ってくる。
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