厄介なイケメン、拾ってしまいました。
7 泡だらけの欲情
「あ〜、楽しかったね、お散歩!」

 帰ってきた玄関口で、繋いでいた手をほどいた蓮くんは開口一番にそう言った。

 繋がれていた手が離れていったのが寂しいと思ってしまった自分に、慌てて首を横に振る。

 これは、ただの散歩だったんだ。
 間違っても、デートじゃない。

 私は芽生え始めた心に蓋をするように、慌てて言葉を紡ぎ出す。

「夕飯、簡単でいい?」
「何でもいいよ。ペットにはお構いなく」

 彼はそう言って、胸元のドッグタグを右手で持ち上げる。
 どうやら、彼もそれを贈られた意味を解したらしい。

「あ、じゃあ俺は風呂の準備してくる!」
「え?」
「俺は優秀なペットですから」

 へへっと笑って、脱衣場へ急ぐ蓮くん。

 なにそれ。

 私はなぜか楽しそうな彼の後を追いかけるように、部屋の中へ入った。

 そして、キッチンに立ってから気づく。
 簡単でいいか、と聞いておきながら、私がこの家で彼にあげたものは白米と食パンのみだったことを思い出す。

「汁物くらい、作ってやるか……」

 一人分も、二人分も、さほど変わらない。
 私は野菜を切って、お鍋に放り込んだ。



「ごちそーさまでした!」

 いつもより丁寧に手を合わせ、いつもより丁寧にそう言った彼は、そのまま立ち上がり脱衣場に向かう。

「ねえ、一緒に入ろ?」
「は?」

 唖然としていると、彼はドッグタグを持ち上げちらつかせた。

「俺のこと、洗ってよ。ペットだから、さ」

 そう来るか。
 爽やかな笑みを向けられているのに、その笑みはどこか挑発的で。

「ご主人さま?」

 私は結局彼に押されて、共に脱衣場へ入ることになった。
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