初恋の味は苦い

はじまりのジ・エンド

淡いグレーのカバーがつけられた掛け布団は、シングルベッドの足元に追いやられ、飲み掛けのペットボトルは蓋が開きっぱなしのまま熱がどんどん放出されてる。

しかし私、森山りつは、そんなことどうでもいい。

今、ベッドの上で一大事が起こってるのだから。

「ん・・・」

祥慈(しょうじ)の舌が私の口の中を舐め回す。
祥慈の部屋に来ると、最近もっぱらこればっかり。
買ってきたお菓子なんて、いつも食べ切れない。今だってテーブルの上で封も切られずにGABAなんたらストレスを低減するとか書いてあるチョコが置きっぱなしになっている。
そうだ、これを食べながら俺の部屋で勉強しようがそもそもの誘い文句だったんだ。

私、森山りつと、この目の前の恋人、多田祥慈はこの3ヶ月ほどの間、寄せては返す波のようにお互い微妙な駆け引きを続けてきた。

しかし、今日の祥慈はちょっと違った。

静かに今、キスを続けながら私の服の中で背中に手を這わせ、下着のホックを外そうとしている。

これを私、許していいのか。

祥慈の肩に置いた左手に静かに力が入る。

しかし無情にもそれは外された。

パリン・・・と心の中の薄い薄いガラスが音を立てて割れた。ように感じた。

「ごめん」

私は祥慈から唇を離し、そう口走っていた。

これ以上は無理。
大好きな祥慈とでも無理。

顔を離した祥慈は少し衝撃をもって私を見つめている。
その目は「またか」と言っていた。

「ごめんなさい」

祥慈のベッドの上、私はまるで土下座でもするかのように深々と頭を下げた。というより、それ以上祥慈の顔を見てられなかったし、祥慈に合わせる顔もなかった。

「なんで?」

私の垂れ下がった頭部に祥慈の柔らかい声が振る。
こう聞かれるのも当然だと思う。

< 1 / 68 >

この作品をシェア

pagetop