妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

15.『凛風』との別れ

 女官用の清楚で質素な衣装。けれど、着る人が着れば、それは極上の一枚になり得る。
 ピンと伸びた背筋。流れるような所作。儚げ且つ凛とした雰囲気を纏う一人の少女を、わたしは急いで呼び止めた。


「華凛! 待って、華凛! 華凛、よね?」

「まあ――――お久しぶりです、姉さま」

「華凛! 華凛、華凛、華凛~~~~!」


 宴の開始から数時間後のこと。念願だった華凛との再会がようやく実現した瞬間だった。

 だけどそれは、決して平坦な道程ではない。他の妃への挨拶と称し、侍女達を引き連れてあちこち探し回った、わたしの努力の賜物だった。

 その中には当然、あのおっかない皇后も含まれている。遠目から見れば、微笑ましく挨拶を交わしているように見えた筈だ。だけど実際は、皇后の毒みたいな嫌味を散々聞いて、ようやく解放された。応酬しても良かったけど、面倒だから聞き流した。そんなもんだから、内容は殆ど覚えていない。


「会いたかったわ、華凛!」


 傍から見れば感動の再会。侍女達は微笑ましく、わたし達の様子を見守っている。


「姉さまったら……ほんの二ヶ月ぶりですのに」

「またまた! ほんとうだったらわたしたち、三日で会えるはずだったのよ?」

「あっ……と、そうでしたわね」


 忙しさのせいか、当初の約束を忘れていたらしい。酷い話だ。おかげでこっちは大変な目に遭ったというのに――――そう思うと、口の端がひくひくと引き攣る。


「仕事は? もう終わりよね? 憂炎もさっきお偉方への挨拶に立っていたし」

「えぇ、まぁ。だけど姉さま……わたくしまだ片づけが…………」

「妃命令よ! 今はわたしを優先して!」


 滅茶苦茶なことを言っている自覚はあるけど、二ヶ月も我慢したんだもん。このぐらいは許してほしい。

 華凛は躊躇いがちに視線を彷徨わせつつ、小さくため息を吐いた。持っていた盆をわたしの侍女へと託し、用意された天幕へと戻る。
 それから人払いをし、私たちは二人きりになった。
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