【コミカライズ】おひとりさま希望の伯爵令嬢、国王の命により不本意にも犬猿の仲の騎士と仲良くさせられています!

第18話 お茶会当日

 いよいよジーク様の婚約者選びのお茶会当日。
 王城の庭園にはいくつものテーブルが準備され、使用人たちが(せわ)しなく準備に奔走している。
 初夏の爽やかな陽気の中、木陰に置かれたテーブルの上には色とりどりの可愛らしいお菓子が並べられ、見ているだけで心が弾む。

(ジーク様……頑張って!)

 招待客が来るまで、まだ時間がある。
 ジーク様は最後の仕上げとして、ヒルデ様やクライン公爵と一緒に、今日の流れのおさらいをしているところだ。
 この一か月、私の厳しい教育に耐えて来たジーク様。突貫工事で申し訳なかったのだけど、幼い言葉遣いも改善され、ダンスも上達し、ご令嬢のエスコートの仕方も覚えた。
 今日のおさらいだって、上手くいくに違いない。

 『おさらい』と言ってはいるが、クライン公爵がチェックしているのは、私からジーク様への教育がきちんと計画通りなされているか。今日のお茶会でジーク様が恥をかくようなことがあれば、私はあっという間に解雇されるだろう。

 ただでさえ私は、この一か月の間に二度も失神してお医者様のお世話になっている。体調面を理由に解雇されるまで、リーチがかかった状態なのだ。


(でも、あれ以来なぜか、私の周りに男性がほとんど寄ってこないのよね)


 ロイド様に突然触れられて失神して以降、近くに男性が寄ってきたらすぐにその場を離れようと警戒していたのに、不思議といつ周りを見ても女性の姿しか見えない。何だか拍子抜けした一か月だった。

 しかし、さすがに今日は男性の使用人もウロウロしているし、護衛騎士も勢ぞろい。お茶会後の夜会では、婚約者候補のご令嬢のお父様たちともご挨拶をしなければならない。


(気を引き締めていかなくちゃ)


 万が一のためにハンカチと一緒に手袋を忍ばせた私は、気合を入れて今日のスケジュール表を見ながら段取りの最終チェック。
 婚約者候補のご令嬢たちは、侍女と共にお茶会に参加する。ご両親は夜会の準備のために、城内の控室に直行だ。


(うん、両親が変に手を回したりしても困るものね。ジーク様ご本人の目で婚約者を選んで頂くための策だわ)


 ご令嬢たちの席は決まっていて、ジーク様はそれぞれのテーブルを回りながら交流をする。時間になれば楽団の演奏に合わせて民族舞踊(フォークダンス)が始まる。

 下は三歳、上は七歳までの小さいレディたちが集まるのだ。多分、機嫌を悪くして泣いたり騒いだりする子もいるだろう。

 そんな中で、イリスは頑張ってくれるだろうか。
 ラルフ様がイリスに必要以上に近付かないように監視しつつ、ジーク様とイリスが楽しくお話できるようにそれとなくフォローしよう。とはいえ最終的にはジーク様のお気持ちが一番大切だから、良いお相手が見つかって楽しく過ごせますように。


「がんばらなくちゃ!!」
「ふふ、とてもやる気満々なのね」
(……ん?!)


 ふと話しかけられて顔を上げると、ヒルデ様とジーク様が手を繋いで立っていた。お茶会前のおさらいは無事に終了したようだ。私はにっこりと笑ってお辞儀をする。


「マリネット、一か月で国王陛下にここまでマナーやダンスを教えてくれてありがとう。陛下の所作や言葉遣いが、見違えるように良くなりました」
「滅相もございません。全て国王陛下の努力の賜物でございます」


 ジーク様の方を見ると、誇らしげににんまりと笑っている。この一か月でとてもしっかりなさったけれど、こういう子供らしい笑顔は抱きしめたくなるほど可愛らしい。


「そうそう、陛下とのダンスの練習で腰を痛められたとか。何度か倒れたという話も聞きました。今日も体調には気を付けるようにしてくださいね。こちらが今日の招待客のリストです。参考になさってね」


 優しく私に一枚の封筒を手渡してくださったヒルデ様に礼をしながら、私はふっと冷静になる。私が腰を痛めていたこと、なぜヒルデ様がご存知なの?
 コーラさんやジーク様の侍女のリズくらいしか知らないはずなのに。
 二度も倒れたことに加えて腰まで痛めたなんて知られたら、解雇まっしぐらじゃないの! ……って思って、できるだけ隠していたのに。最悪だわ。


「マリネット先生! 今日はお茶会を楽しみましょう。ぼくはダンスが楽しみです」
「ジーク様。『ぼく』、ではなく、『わたし』と仰ってくださいね。さあ、始まります。お迎えにまいりましょう!」
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