俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
三章
三章

 同居開始から半年後の五月。
 大安吉日の今日、日菜子と善は結婚式をあげた。スピード挙式だったわりには、豪華で立派な式になったと思う。どちらの両親も満足そうだったし、中野や南をはじめとする参列客もみな『良い式だった』と褒めてくれた。

 今夜は披露宴会場のホテルのスイートルームが用意されている。都心の夜景を見おろす豪華な部屋だ。

「おつかれさま」
「はい。善さんも」

 上着を脱ぎネクタイを外した彼はコキコキと首を鳴らす。朝から大忙しだったので、ふたりとも疲れていた。彼はソファに座る日菜子の隣に腰をおろした。彼はあいかわらず距離が近い。ぶつかる肩に日菜子の心は揺れる。

 香水の相手が誰なのかは今も謎のままだ。彼からあの香りを感じたのは三か月前のあの日だけ。思いきって聞いてみればいい話なのだけれど、どうしても勇気が出なかった。

(だって、善さんに恋人がいたとしても私になにか言う権利はないもの。それどころか、本気で好きになったなんてバレたらこの結婚がややこしくなるだけだし……)

「なぁ……俺になにか怒ってる?」

 善はのぞき込むように日菜子の顔を見る。

「な、なんのことでしょう」
「ごまかすなよ。このところ、俺の顔を見てくれないし、なにか言いたいことがあるんじゃないのか?」
< 66 / 123 >

この作品をシェア

pagetop