やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

9

 ギャーギャーわめきながら、カルロッタが連行されて行く。ジャンは、医師の手当てを受けるため、すぐに別室へ運ばれた。それを見届けると、ステファノはゴドフレードの前に進み出た。

「帰国が遅くなり、申し訳ございません、兄上。機密条項流出に関する証拠は、全て確保してございます」
「構わぬ。お手柄であった」

 ゴドフレードが、弟に微笑む。ドナーティは、恐る恐るといった様子で、ステファノに話しかけた。

「殿下? ロジニアの戦況は、一体……」
「ああ、それならもう決着はついた」

 ステファノは、けろりと答えると、ビアンカの方を向き直った。

「不安な思いをさせて、悪かった。カルロッタがおかしな動きをしておると聞いて、本当はすぐに駆け付けたかった。だが司令官として、現場を離れるわけにはいかぬ。そこで取りあえず、ドナーティらを向かわせて時間稼ぎをさせたのだ。私は、(いくさ)を一段落させると共に、あの女のしっぽをつかむための証拠集めをしておった。それで少し遅くなったのだ」

「いえ、そのような……」

 ビアンカは、ふるふるとかぶりを振った。言いたいことはたくさんあるのに、胸がいっぱいになって、上手く言葉がつむげない。

「殿下、本当にありがとうございました。何と、お礼を申し上げればいいのか……」

「よい。無事で何よりだ。……その髪、少し伸びたようだな」

 あれから一ヶ月が経ち、ビアンカの髪は、肩に付くか付かないかくらいになっている。ステファノは、その髪にそっと触れると、ふと食卓を見た。

「おお、これは懐かしいな。そなたの料理であろう?」
 
 彼は、空になった皿を見つめて、残念そうな顔をした。

「惜しいことをした。もう少し早ければ、間に合っていたものを」
「はい。今日は、殿下のお好きな梨で、クレープをお作りしたのですが……」

 言いながらビアンカは、あれと思った。毒殺騒ぎが起きたのは、デザートに入る前の段階だった。以降はそれどころではなかったため、クレープは誰も食べていないものと思ったが……。

「ああ、ステファノ、すまぬ」

 ゴドフレードが、バツが悪そうに笑う。

「ビアンカ嬢特製クレープが、あまりに美味かったものでな。私が全て食べてしまった。他の者の分まで」

(それで、どなたのお皿も空なのね……!?)

 いつの間に食べたというのか。ビアンカは、唖然とした。ステファノが、心底恨めしそうな顔をする。

「兄上~!」
「いや、悪かった。あ、ジャン製のものならあるぞ? レシピはデタラメであろうが」
「誰が要りますか!」

 ステファノが、地団駄を踏む。広間は一転、明るい笑いに包まれたのだった。
< 135 / 253 >

この作品をシェア

pagetop