やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

12

 翌日の晩餐後、ビアンカは与えられた部屋で、そわそわと過ごしていた。ステファノの体が空くのが夜だけなので、レッスンもこの時間になるのだ。室内はかなりの広さがあるため、ここで練習することになった。彼を待つのは、何だか落ち着かない。その上、早起きの習慣があるビアンカは、すでに眠気を感じていた。

「しゃきっとなさいませ、お姉様」

 ちゃっかり、同じ部屋に滞在を許してもらったルチアが、励ますように言った。この一週間、彼女はビアンカのサポートついでに、王都のファッションを学ぶのだという。

「早起きし過ぎるからですわよ。せっかくお仕事もお休みなのですから、遅くまで寝ていればよろしかったのに」

「卵を集めるために早く起きるのが、癖になっているんですもの。……ああ、代役の方は、ちゃんとやってくださっているのかしら? 無駄な食材を買い込まれたり、されていないかしら……」

「お姉様、とことん貧乏性ですわねえ」

 呆れたようにルチアがため息をついたその時、ノックの音が聞こえた。二人は、反射的に姿勢を正した。ステファノが来たのだ。

「どうぞ、お待ちしておりました」

 ビアンカは扉を開けると、恭しくステファノを出迎えた。ルチアも挨拶すると、素早く部屋を出た。気を利かせたつもりだろうが、ビアンカとしては緊張して仕方ない。

「お忙しいところ、私のためにお時間を取っていただき……」
「堅苦しい礼はよい。私も、舞踏会は久々だからな。いい慣らしになるであろう」

 ビアンカを安堵させるためか、ステファノはそんな風に言って微笑んだ。

「ステップは復習した方がよいか?」
「いえ、それは大丈夫と思います。昼間、妹からも教わりましたし」
「では一度、実践してみるか」

 練習するのは、舞踏会では必須といってもよい、ワルツだ。向かい合い、基本姿勢を取る。ステファノの手が背中に触れただけで、ビアンカはカッと全身が熱くなる気がした。コチコチに硬直しているビアンカを見て、ステファノが可笑しそうに笑う。

「リラックスせよ。ダンスなど、男の側がリードするものだ。私に身を任せていればよい」
「はい……」

 音楽はないので、ステファノが軽く拍子を取ってくれる。動き出した途端、ビアンカはおやと思った。

(すごく、スムース……)

 任せていればいい、というステファノの言葉は、その通りだった。直前まであれほど緊張していたのに、足が勝手に動くようだ。

「もう少し首を伸ばせ」

 囁かれて、ビアンカは反射的に従っていた。途端に、視線がぶつかる。吸い込まれそうに美しい、漆黒の瞳と。
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