やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

10

 クラリッサは、しばらく目を見開いていたが、やがてしみじみと呟いた。

「さすが、ご姉妹ね。よく似てらっしゃるわ。ルチアさんも、全く同じことを仰ったの」

「クラリッサ様……」

「そして、こう仰りたいのじゃない? 本当に子供たちが大切なら、会いに行くべきだ、と。少なくともアントニオは、母親が会いに来ないことに傷ついている、と。ルチアさんは、そう仰ったわ」

 今度はビアンカが、あっけにとられる番だった。それはまさに、ビアンカが言おうとしていたことだったからだ。クラリッサが、ふっと微笑む。

「だから今日、勇気を出してここへ来たわ」
「……つまり、アントニオさんに会われるのですね!?」

 ビアンカは、思わず顔をほころばせていた。ええ、とクラリッサが頷く。

「私は、自分に言い訳をしてきただけだわ。あなたとルチアさんが言われたことは、まったくその通り。子供たちを守るために、陛下のご命令に従ったけれど、果たしてあの子たちにそれをわかってもらえるか、不安だったの。子供たちに、母親としてどう見られているかという心配が先立って。だから修道院入りして以来約二十年、会いに行く勇気が出なかったのだけれど……。でも、それよりも大切なのは、子供たちの気持ちよね。たとえ罵られても、会いに行って来るわ」

「アントニオさんは、罵ったりしませんわ。優しい方ですもの」

 ビアンカは、励ますように言った。クラリッサが、深々と礼をする。

「ビアンカさん、本当にありがとうございました。ルチアさんにも、よろしくお伝えくださいね」
「はい、もちろんです」

 笑顔でクラリッサを見送ったビアンカだったが、ふと疑問を覚えた。修道院の場所もだが、そもそもルチアは、どうやってアントニオと母親の問題を知ったのだろう。過去の経緯、修道院から解放する、しないのいきさつを、ビアンカは彼女に話していない。となると、アントニオ自身が喋ったのだろうか。

(いつの間に……? まあいいわ)

 ひとまずは、親子の対面が良い結果に終わりますように、とビアンカは祈ったのだった。
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