やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

11

 王宮での生活は、慌ただしく過ぎて行った。ビアンカは、イレーネの食事作りの合間に、王立騎士団の建物に顔を出しては、ジャンと新メニュー開発に取り組んだ。時間が空けば、ドナーティ宅の訪問である。タマネギ臭を消すコツを伝授するうち、そこの料理番とはすっかり親しくなった。彼はお返しに、妊婦が摂るとよい栄養について教えてくれた。早速イレーネのために役立てようと、ビアンカはドナーティ邸の厨房を借りて、メニュー研究にいそしんでいるのである。

「まああ、今日も美味しそう」

 その日の晩餐のメニューを見て、イレーネは顔を輝かせた。妊婦は貧血予防が何より重要だということで、イレーネには連日、牛肉料理を食べてもらっている。今夜は、ローストだ。果物を一緒に摂取すると効果大と聞いたので、デザートにはオレンジを食べていただく。緑の野菜も良いというので、スープのメインはホウレンソウだ。

「デザートは、新作なのね。それは、クルミかしら?」

 イレーネが、クルミの焼き菓子に興味を示す。ナッツの類も、貧血に良いと聞いたのだ。説明すると、イレーネは興味深そうに頷いた。

「ビアンカさんは、勉強熱心なのねえ。あっ、ゴドフレード様の分は、ご用意したかしら?」
「はい、殿下の分は、別にお作りしてございます」

 ゴドフレードはどうやら甘党らしく、ビアンカの作るスイーツには毎度、並々ならぬ関心を示すのである。

「なら、よかったわ。でないと彼、目を離した隙に、私の分を召し上がってしまうのですもの。これは私だけでなく、お腹の赤ちゃんの栄養でもあるのだから、あなたはご自分のお子から食べ物を取り上げているのと同じことよって説教したわ」

「まったくでございますわ」

 ビアンカは、うんうんと頷いた。イレーネが、クスッと笑う。

「でも、それより堪えたのは、このままだとお父上みたいになりますわよって言葉みたい。効果てきめんだったわ」

(まあ、国王陛下みたいには、なりたくないですわよね……)
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