やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?
第十七章 やり直し前と歴史が変わりすぎです!? 黒幕はあなたですか!

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 イレーネとの話が長引いたせいで、厨房へ戻ると、他の料理人や下働きたちは皆帰った後だった。明日の仕込みをしながら、ビアンカは忙しく頭を巡らせた。

(この後、殿下の所へ伺うにしても、一度着替えないとダメよね)

 求婚の返事をしに行くのだ。使用人服ではまずいだろう。ステファノにもらった豪華なドレスとまではいかなくても、もう少しマシな服に着替えなければ。髪型も整え、化粧も施した方がいいだろう。

(あああ、髪も肌もパッサパサだわ)

 ビアンカは、頭を抱えたくなった。三カ所の厨房巡りという、ある意味、普段の寮の仕事よりハードなスケジュールをこなしてきたのだ。ここ最近は、美容に気を遣うどころではなかった。

(でも、殿下のことは、ずっとお待たせしてきたのだもの。早くお返事しなくては……)

 慌ただしく仕込みを終えて、厨房を出る。そこで、ビアンカはハッとした。何と、ステファノが佇んでいたのだ。

「すまない。まだ仕事中であったか?」

 ステファノは、遠慮がちに尋ねた。

「いえ、もう終わりましたが。……何か、急ぎのご用でも?」
「いや」

 ステファノは、かぶりを振った。何だか寂しそうな表情だった。

「顔を見たくなっただけだ。元気でやっておるかと思ってな」

 王子ともあろうものが、厨房へ顔を出すなど、通常はあり得ない。自分がそうさせたのだと思うと、ビアンカは罪悪感を覚えた。王宮へ到着してから、かれこれ一週間になるが、ビアンカは用事を作っては、ステファノを避け続けてきた。彼からすれば、嫌われたと感じたかもしれない。

「ジャンもドナーティも、そなたには感謝しておる。だが、頑張りすぎて疲れを出さぬようにな。それだけ、伝えたかった」

 言い終えるとステファノは、早くも踵を返した。ビアンカは、思わず彼を呼び止めていた。

「殿下。私も、殿下にはお会いしたいと思っておりました」

 ステファノが、意外そうに振り返る。ビアンカは、勇気を振り絞って続けた。

「ずっと、王立騎士団の建物の窓から見ていました。調練場でのお姿を。おそばで過ごせたら、どんなにいいかと、そう思って……」

 ステファノは、不思議そうな顔をしながら、こちらへ近付いて来た。

「だから、外出しようと誘っておったではないか。王立騎士団の新メニュー作りもおおむね完成したと、ジャンからは聞いておる。明日あたり、息抜きでどこかへ……」

「違います。そういう意味ではなく……」

 顔が熱くなるのがわかった。膝が、ガクガク震える。ステファノは、いよいよ困惑したような表情で、ビアンカの額に触れた。

「いかがした? 顔が赤いぞ。熱でもあるのでは……」
「一生、おそばにいさせてくださいませ」

 ビアンカは、消え入りそうな声で告げた。ステファノの動きが止まる。
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