やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「いやいや、それにしても、ジョット君のような立派な婿を迎えられて嬉しいよ。これでカブリーニ領の行く末も安泰だ」

 額の汗を拭いながら、父が言う。ジョットは、二年後のスザンナとの結婚と同時に、騎士団を辞め、カブリーニ家に来る予定なのである。父の下で、領内のことを学ぶそうだ。

「とんでもない。どうぞご指導、よろしくお願いいたします」

 うやうやしく答えるジョットの手を、母はすがるように握った。

「ジョットさん、どうか夫の支えになってやってくださいね。よろしく頼みますわ」
「私からも、お願いしますわ。頼りない父ですが、見捨てず助けてあげてください」

 ルチアが、脇から念を押す。普通はスザンナをよろしくという場面では、とビアンカは呆れた。微力ながらご協力させていただきます、とジョットがそつなく答える。そこへ、ボネッリ伯爵がやって来た。

「おお、ドメニコ! そして、ご夫人。この度は、おめでとうございます」

 伯爵は、満面の笑みを浮かべていた。エルマとコリーニも一緒である。

「うちの騎士団員が、君の所のお嬢さんと婚約だなんて、我らは固い縁で結ばれているのだなあ」

 しみじみと頷いた後、伯爵はビアンカの方を向き直った。

「そうそう、ビアンカ嬢。ステファノ王弟殿下に、よろしくお伝えくださいませ。街道整備は、おかげさまで順調に進んでいると」
「それはよろしかったですわ」

 ビアンカは、ほっとした。

「これで我が領も、きっと豊かになることでしょう……。何もかも、ビアンカ嬢のおかげです。ステファノ殿下が、貧困地域の開発に尽力されるようになったのは、あなたの影響と聞いておりますよ。騎士団寮に来てくださって、本当によかった。私は、良い友を持ったものだ……。君との友情に感謝するよ、ドメニコ」

「礼には及ばないよ。親友の君のためじゃないか、エルネスト!」

 ボネッリ伯爵と父は、ひしっと抱擁を交わしている。その横で母は、ぼそりと呟いていた。

「あなたは、何もしてないでしょうが……」

 ひとしきりの抱擁を終えると、ボネッリ伯爵はふと首をかしげた。

「しかし、真っ先に我が領の改革に取り組んでくださったのはありがたいのですが……。何だか、貧困地域の代表になった気分ですね」

 その場にいた全員が、沈黙する。そして、聞かなかったふりを決め込んだのだった。
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