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(3)

 ブブ、と耳慣れた音で、千真は目を覚ました。

「――はい」

 耳元で、駿介の声がする。それに安心して目を閉じたのは一瞬で、ギョッとして身体を離せば、スマホを耳に当てたままの駿介が驚いた顔をしていた。

「ああ、悪い。今から帰る。……ああ、わかった」

 スマホからわずかに聞こえてきた声で、電話の相手が旭だということは判ったが、今の状況は飲み込めない。
 混乱する千真をよそに駿介は立ち上がると、おい、と千真に手を差し出した。

「おまえ、どうする?」

「ど、どうするって?」

「だから。うちに、来るか?」

「……え?」

 だからって、一体どうしてだからという話になるのだろう。
 千真は差し出された手を握って立ち上がり、はらりと肩からシーツが落ちたことで記憶が巡ってくる。慌ててそれを掴み上げ、ふと顔を上げれば、テレビの裏の絆創膏が目に入った。

 ごく、と唾を飲んだのが判ったのか、駿介が優しく抱き寄せてくれる。

「まったく知らない赤の他人に見られるか、俺に見られるかの2択だな」

「いやな2択ですね」

 駿介が声を明るくして言ったので、千真も肩の力を抜いて、口元を綻ばせた。

「俺としては、ここに置いておきたくはない。けど、連れて帰ったら、間違いなくヤる」

「……ん」

 駿介から触れるだけのキスが落ちてきて、額を合わせる。どうする、とその瞳が聞いてくるが、なんとなく、もう答えは1択しかないような気がした。

「ひとつだけ、いいですか?」

「なんだよ」

 会話の間にキスが降ってくるのがくすぐったくて身を捩れば、がっしりと腰を掴まれた。

「するのは、決定事項なんですか?」

「当然だろ。今すぐ押し倒したいのを我慢してるのに」

 押し倒したいって……。そんな言葉を、照れもせず言うのはやめてほしい。
 だけど。

「――はい」

 千真は、背伸びをして駿介の首に腕を回した。

「駿介さんの家に、行きます」

 そう言えば、今度こそ深いキスを贈られた。
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