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(2)

「あれだけ言ったのに」

「だから、悪かったって。止められなかったんだよ」

「猿じゃないんだから、少しは自重しろよ」

「わかってるっつーの」

「わかってないから、何度も手出したりしたんだろ」

 朝から、もう何度目の会話になるだろう。駿介はうんざりしながら、頭を掻いた。

「ところで、おまえも休むだろ?」

「なんで?」

 話題を変えるように言われたが、駿介はきょとんと目を丸くする。当然、今日は出社して、あのふたりを断罪する気満々だった。

「なんでって。目が覚めて、賀永さんひとりじゃ心細いだろ」

「あー」

 駿介は、ちらりと自室のドアに視線を向ける。自分のベッドでは、よほど現実逃避したいのか、いまだに眠ったままの千真がいて、夜の間にここに連れてきたことの説明さえまだできていない。
 そんな千真をひとり置いて出社すれば、当然、千真が混乱するのは目に見えている。

「俺が残ってもいいけど?」

「ふざけんな。いい、わかった。俺も休むけど、骨の髄まで再起不能にしてこいよ」

「無茶言うなって」

 旭は呆れたように頷いて、千真の傷を思い出す。
 月明かりだったし、はっきり見えたかと言えばそうでもない。駿介が大事そうに抱えていたし、旭には見えないよう、隠していたふうでもあった。

 駿介がキスマークを堂々と見せつけるようにつけていたのとはわけが違う。あえて隠れるところに、爪を立てて痕を残していた。
 前の日に見た腕も相当なものだったが、腹は、それ以上。痕が残らないよう、きれいに完治するのは難しいかもしれない。

「一応、怪我人だってことを忘れないように。俺がいない間は、好きなだけイチャつけばいいけど、マジで夜は勘弁して」

「だから、それは俺だけが悪いんじゃねーって。あいつがふにゃふにゃしてるのが悪い」

「知らないよ、そんなの」

 そんな部下の性事情なんて、聞きたくない。
 ふにゃふにゃしている千真を想像できないかと言えばそうでもないので、なおさら、聞きたくなかった。

「そういえば、駿介、いつから賀永さんのこと好きだったの?」

「あ? 別に、好きじゃねーよ」

「はあ?」

 照れ隠しかなんか知らないが、さすがに千真が哀れに思える。
 あれだけ手を出しておいて、好きじゃないとか、ありえなくないだろうか。

 おまえ、と文句を言おうとして、ガチャ、という物音に視線を移せば、驚いたように目を丸くした千真が、駿介の部屋の入口に立っていた。

「おはようございます、旭さん」

「……」

 にっこりと旭に向けてあいさつをする千真は、駿介には一瞥もくれなかった。
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