モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

3

「そのようなわけで、グレゴール様はお忙しいため、私が代わりに領地に赴くことも多々ございます。ですが私不在の際でも、他の使用人たちに、何なりとお申し付けくださいね」
 家令とは、執事よりも大変な存在らしい。私は、神妙に礼を述べたのだった。
 一通り屋敷内を案内してくれた後、ヘルマンは私をこぢんまりした部屋へ連れて行った。
「こちらがハルカ様のお部屋でございます。生活に必要なものは早急にそろえますので、少しだけお待ちくださいね」
「ありがとうございます。お手数をおかけします」
 私は、丁重に礼を述べた。
「それからお召し物ですが、ご用意できるまでの間は、メルセデス様のものを着ていただきます。申し訳ありませんが」
「メルセデス様?」
「グレゴール様の、姉君でいらっしゃいます」
 同居しているという姉か。ヘルマンが、熱弁を振るう。
「メルセデス様は、社交界一の美女と誉れ高い上に、知性、品性、教養いずれも完璧でいらっしゃいます。もう、引く手あまたと言いますか」
 それでグレゴールは、姉から教われと言っていたのかな、と私は思い出した。
(あれ、でもグレゴール様が二十八歳ということは、お姉さんてアラサーじゃないの?)
 それなのに未婚で、実家に居るのか。本当に引く手あまたなのかな、と私は疑問に思った。このヘルマン、話を盛ってやしないか。
「おお、噂をすれば! メルセデス様、こちらがハルカ様です」
 ヘルマンが、突如華やいだ声を上げる。私は、慌てて振り返った。
 すらりとしたスレンダーな女性が、こちらへやって来る。長い銀色の髪を無造作に結い上げた、落ち着いた雰囲気の女性だった。顔立ちはグレゴールによく似て、目鼻立ちがくっきりしている。確かに美人と言われればそうなのだが、化粧気は皆無だ。案外地味だな、と私は密かに思った。
「初めまして。ハルカと申します。こちらでお世話になります」
「ああ、グレゴールの計画に協力してくれるという?」
「計画?」
 思わず聞き返せば、ヘルマンは焦った素振りをした。
「メルセデス様、その件はハルカ様には……」
「そうだったの?」
 一瞬、しまったという表情を浮かべたものの、メルセデスはすぐに笑顔になった。
「グレゴールの姉のメルセデスです。三十一歳よ。あなたは?」
「……二十二、ですが」
 『計画』という言葉や、いきなり年齢を告げられたことに戸惑いつつも、取りあえず私は答えた。
(やっぱり、アラサーか……)
 よく見れば、グレゴールと同じ黒色の瞳の周囲には、微かな小じわも見える。だが、ここは見ないふりでお世辞を言っておこう。私は、ことさらにトーンの高い声を上げた。
「でもメルセデス様、三十一歳にはとても見えませんね。お若いです!」
 ところがその瞬間、メルセデスはピキン、と音がしそうな勢いで顔を引き攣らせた。
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