モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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「北山さん、お疲れ」
 榎本さんが、微笑む。しばしたわいない雑談をした後、私はさりげなく本題に入った。
「そういえば榎本さん、増田さんと付き合い始めたんだって?」
「うん、そうだけど?」
 それが? と言いたげなけろりとした声音で、榎本さんが返す。私は、イラッとするのを抑えられなかった。
(出たな、サバサバ)
 『サバサバ女子』は、理由あって苦手なのだ。渦巻く苛立ちを隠して、私はあえて軽い調子で尋ねた。
「もう、二人でどこか遊びに行ったりしたの?」
「ううん、まだ」
 でしょうね、と私は納得した。榎本さんの趣味は古本屋巡り(買うのはプログラミングの本)で、飲食する場所は定食屋や居酒屋 (それもおひとりさま)なのだ。この女子力にとんでもなく欠ける彼女と、お洒落スポットが似合う増田さんでは、デート場所を決めるのも大変に違いない。
(やっぱり、増田さんに似合うのは私……)
 内心ほくそ笑んでいると、榎本さんはこんなことを言い出した。
「あ、でも、今度一緒にゴルフしようって話は出てるけどね」
「ゴルフ!?」
 私は、思わず榎本さんの顔を見ていた。化粧っ気の無い顔で、彼女が頷く。
「そう。二人とも、好きなんだ」
 そこで私には、ひらめくものがあった。わざと、トーンの高い声を張り上げる。
「偶然! 私、前からゴルフって興味あって~」
「そうなの?」
 榎本さんは、意外そうな顔をした。
「どういう所で練習するの? 一度、連れてってくれないかなあ。あ、もちろん二人の邪魔はしないからさ。最初に案内してくれるだけでいいよ?」
 目をうるうるさせて、顔の前で大げさに手を合わせる。
「お願いっ。だって、一人で行くのって不安で~」
 他の女なら絶対に警戒するだろうこの状況、天然榎本はあっさり頷いた。
「いいよ。三人で行こっか」
「ありがとう!!」
 小躍りしたいのを、全力で抑え込む。もちろん、『最初に案内してもらうだけ』なわきゃない。理由を付けては割り込み、隙を見て、次は増田さんと二人で行く約束を取り付けるつもりだ。
 いいタイミングで、地下鉄の駅に到着した。今日は、風が強い。榎本さんはパンツルックだけれど、私はフレアスカートだ。裾を慎重に押さえながら、私は彼女と並んで階段を降りた。
「じゃあ……」
 日時が決まったら教えて、そう言おうとしたその時、突如突風が巻き起こった。そんな季節でも無いのに、台風かと思ったくらいの強風だ。階段を降りるどころか、その場に立っていることもままならない。天気予報で言っていたかな、と私は不思議に思った。
「何!?」
 榎本さんも、顔をしかめている。次の瞬間、私は目を疑った。榎本さんの体が、宙に浮いたのだ。風に煽られて、彼女の体も鞄も、パタパタと揺れている。
「助けてえっ」
 榎本さんが、金切り声を上げる。そして私はぎょっとした。私自身も、その場にふわりと浮き上がったのだ。お気に入りのパンプスは、完全に石の段から離れていた。
「いやああああっ」
 私たちは、思わず手を取り合っていた。容赦なく吹き付ける風の中で、意識が遠のいていく。最後に私の脳裏をかすめたのは、榎本さんでも女らしい悲鳴が上げられるんだな、という思いだった。 
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