モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

7

「ええ!? 先ほど、治療をして差し上げたばかりだというのに」
 榎本さんは、眉をひそめながらも立ち上がった。
「北山さん、ちょっと出かけて来てもいいかな?」
「もちろん! 早く行って差し上げて」
 廊下でお会いした時は、お元気そうだったけれどな、と私はクリスティアンの顔を思い浮かべた。
「本当に、ゴメンね。あ、そうだ。せっかくだから、あの子たちと遊んでいたら?」
 榎本さんは、部屋の奥にある扉を開いた。ベッドが見え、予想通り寝室のようだ。何気なくのぞき込んだ私だったが、その光景に固まった。
 ベッド上には、毛並みの美しい白猫と、黒い毛がふさふさした子犬が寝そべっていたのだ。二匹は、見慣れない訪問者が来たとばかりに、サッと私を見た。
「猫に見える方が、セシリア。犬に見える方が、ウォルターっていうの。イルディリア王国の、聖獣だよ」
 榎本さんは、こともなげに言った。
「せいじゅう?」
「不思議な力を持っていて、イルディリア王家を守っているんだけど……、って、説明してる時間が無いや。普通に、ペットとして接してくれたらいいからさ。北山さん、動物好きだったよね?」
「いや、実は、その……」
 『動物好きな女子』って男性ウケがいいから、私もそう称していたのだけれど。本当の私は、大の動物嫌いなのだ。
 だがそこへ、呼びに来た女性が「お急ぎください」と声をかけた。榎本さんは、女性に付いて、あっという間に行ってしまった。私は、苦手なもふもふ二匹と共に、取り残されたのだった。
(やばい、どうしよう……)
 聖獣がどういうものなのかは、今ひとつわからないけれど、一般の動物とは違う特別な存在らしいことだけはわかった。だとしたら、丁重に取り扱わないといけないだろう。
(普通の動物の扱いだって、よくわかんないのに……)
 見つめ合ったまま硬直していると、犬風(ウォルターだっけ?)の方が、パッとベッドから飛び降りた。すばしっこく私の方へ走り寄って来ると、ドレスの裾にまとわりつく。
「クゥーンクゥーン!」
 ぎょえええ、と私は悲鳴を上げそうになった。どうやらウォルター的には、甘えているみたいなのだけれど。私は、動物に寄って来られるのが、我慢ならないのだ。だからといって、まさか蹴っ飛ばすわけにもいかない。
「いいい、いい子だから、元の位置に戻って! いえ、戻ってくださいませ」
 聖獣様にタメ口はまずいかと、かろうじて敬語で言い直すが、私の言葉は通じなかったようだ。揺れるフレアースカートが面白いらしく、くっついて離れようとしない。
(もうダメ、限界!)
 誰かに助けを求めよう、と私は出口の方を見た。ウォルターを適当にいなしつつ、そろりそろりと扉へ近付く。バッと開けると、私はきょろきょろと廊下を見回した。
「すみませーん! どなたか……」
 ところがその時、寝室の方で、微かな物音がした。嫌な予感がして振り向けば、それまでノーリアクションだったセシリアが、軽やかに走って来るではないか。
「やばっ……」
 慌てて扉を閉めようとしたが、間に合わなかった。セシリアは、僅かな隙間から、ピューッと飛び出て行ってしまった。
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