モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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(何が悪かったんだろう……?)
 しばし考えてから、私ははたと思い当たった。王太子みたいな身分の高い人に触るのは、NGなのかもしれない。普通の男性だったら、ボディタッチを喜ばないはずがないもの。
(身分が高いというのも、厄介なものなのね。本当は、嬉しかったでしょうに……)
 うんうんと一人頷いていると、威圧的な声がした。
「おい」
 グレゴールだった。慌てて立ち上がり、彼の方を向き直る。するとグレゴールは、不意に私の顎を捕らえた。
「なっ……」
「お前、顔は悪くないな」
(悪くない、って何よ)
 学生時代は、読者モデルをしていたくらいなのに。一瞬ムカッとしたものの、私は大げさにかぶりを振った。
「え~、そんなことないですよ~」
「というわけで、側妃を目指す気は無いか?」
 スルーかよ、とまたもや苛ついた私だったが、はたと彼の言葉を反芻した。
(側妃って言った? つまり、第二夫人とか第三夫人とか?)
「まんざらでもなさそうだな」
 グレゴールは、にやりと笑った。間近で見ると、彼も相当端正なイケメンだ。肌は浅黒く、眉は濃く、目鼻立ちのくっきりしたワイルドな顔立ちである。
「クリスティアン殿下は、現在十七歳であらせられるが、三ヶ月後に他国の姫君との結婚を控えられている。だからこそ、早く病をお治ししないといけないのだが……。ところが姫君はお体が弱く、お子を成せない可能性があるのだ。もしも側妃として殿下のご寵愛を受け、お子をもうけることができれば、こんな名誉なことはなかろう?」
 私は、忙しく頭を巡らせた。二十歳過ぎとばかり思っていた王子が、まだ十七歳とは。私より五つも年下だが、それはこの際、いい。正室に子供ができなくて、跡継ぎを産んだ側室が権力を持つというのも、歴史ドラマで観たことがあるし。とはいえ、即答すると値打ちが下がるだろう。私は、首をかしげて悩む風を見せた。
「ええ~、でも、私なんかぁ。王子様よりも年上だし、全然可愛くもないのに、無理ですよぉ」
 グレゴールは、とたんに私の顎をパッと放した。
「そうか。自信が無いなら結構」
「――はい?」
 私は、目をぱちぱちさせた。まさか、真に受けたのだろうか。だがグレゴールは、本当に踵を返した。
「チャンスをやろうかと思ったのに、残念だな。あいにく、異世界から召喚した者を元の世界へ返す手段は、見つかっていない。クリスティアン殿下は、お前の処分を俺に任せたと仰った。仕方ない、娼館にでも売り飛ばし……」
「待って、待ってください!!」
 私は、大慌てでグレゴールにすがった。何というのかわからない、彼の着ている丈の長い上着の裾を、ちょんと摘まむ。
「側妃、目指します。私でよければ!」
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