モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
第八章 自覚した気持ちは叶わなくて

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 こうしてグレゴールと私は、以前行った劇場を訪れた。

 客席に入ってみると、そこは日本の劇場と、さほど変わらなかった。やや小さめの舞台を、半楕円形の座席が取り囲んでいる。違いは、天井がべらぼうに高いことだ。装飾も凝っている。ついつい見上げていると、グレゴールは可笑しそうに笑った。

「上ばかり見ていると、蹴躓くぞ。ほら」

 腕を差し出されたので、私は素直に従うことにした。グレゴールが取ってくれた席は、全体の中央付近だ。舞台から近すぎず遠すぎず、程良い距離感である。

(見やすそうな位置じゃん)

 ワクワクしながら腰かけようとした私だったが、その時、甲高い声がした。

「あら! グレゴールじゃない。偶然ね」

 無性に嫌な予感がして顔を上げると、通路には何と、カロリーネの姿があった。取り巻きらしき令嬢たちを、引き連れている。

「まあ、ハルカさんもご一緒? お久しぶりねえ。舞踏会以来だわ」

 カロリーネは、私ににこやかに微笑みかけた。

(あなたのお兄さんに襲われかけたってのに、何、その何事も無かったかのような態度……)

 一瞬ムカッとするが、他の人間もいる以上、暴露されるのも困るかと思い直す。私は、仕方なく丁重に挨拶した。

「お久しぶりでございますわ、カロリーネ様」

「まったくですな。……あなたが芝居をご覧になるとは、意外です」

 グレゴールは、そんなことを言った。あら、とカロリーネが目を見張る。

「意外かしら? だって今日のお芝居は、恋愛物ですもの。それに、主演の男性役者は、女性にたいそう人気なのですって。女なら、誰でも見たくなって当然ですわよ」

 ねえ、と言いたげに、カロリーネが取り巻きたちの方を振り返る。私は、ムカムカが増してくるのを感じていた。

(どの口が言う? 『演劇は庶民が楽しむレベルのもの』とか言っていたくせに……)

 だが周囲の観客らは、好意的な眼差しでカロリーネを見つめている。こんな囁きも聞こえてきた。

「王弟殿下のご令嬢だよな?」

「気さくな方じゃないか」

(あ~、もう! 演技だっての。『サバサバアピール』!)

 苛立つ私に構わず、カロリーネはつかつかと歩み寄って来た。グレゴールの隣席の男性客に、微笑みかける。

「ねえ、あなた。私の席はあそこなのだけれど、交換してくださらない?」

 私は、思わず眉をひそめていた。

(何? 強引に割り込む気……?)
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