僕の素顔を君に捧ぐ

素顔を見せて


ネットでニュースを確認していると、如月琉星の報道の動画がアップされていた。

見ると、テレビ局らしい建物の出入り口で、詰め掛けた報道陣に囲まれた如月が、爽やかな笑顔で応じている。

大きく息を吸って見せると、レコーダーを持った取材陣の手元が引き寄せられるように如月の口元に近づく。

「皆様、この度はお騒がせして、申し訳ありません」

そう言って深く頭を下げた後、再びにっこりとほほ笑んだ。その笑顔にどよめきが起きる。

「ご一緒させていただいた女性と入籍はしていません。ただ、僕にとってかけがえのない人です。どうか、温かく見守ってください。」

意地悪な質問に華やかな笑顔で返し、如月が車に乗り込んだところで動画は終わった。
優花は唖然と画面を見つめた。


―僕にとってかけがえのない人です

如月の言葉が頭の中にこだまする。一体どういう意味で…。

その後、グッドハウスのユニフォームを着た小野がダストカーを押してマンションのドアを開けた。

ダストカーから降りた如月は、両手で抱えても零れそうなほどの大きな花束を抱えていた。

ドラマの撮影が終わってスタッフから花束を渡され、拍手を受ける俳優の姿をテレビで何度か見たことがある。クランクアップのお祝いの花束だとわかった。

ダストカーと美しい花たちの奇妙な取り合わせに、優花は思わず笑ってしまった。

「ひさしぶりに、笑った顔を見た」

「お帰りなさいませ。撮影終了、おめでとうございます」

「ありがとう。君のおかげだよ」

如月の柔らかい声が響いた。その声は明るく弾んでいる。

如月は花束を優花に差し出した。

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