罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~

03 もちろん誰にも言いません

「リナリア嬢」
「は、はい、シオン殿下!」

 シオンはなぜか大きく瞳を見開いたあとに、フワッと柔らかく微笑んだ。

「私と内緒の恋をしていただけますか?」
「内緒……」

 その言葉で我に返ったが、リナリアにとってはご褒美でも、シオンにとってはこれは罰ゲームだ。

(そうよね、例えウソでも私なんかを口説き落としていると周りに知られたら恥ずかしいわよね)

 リナリアがコクコクと必死に頷くと、シオンは少し遠慮がちに「貴女の手の甲にキスをしてもいいですか?」と聞いてきた。

(え!? この罰ゲーム、そんなことまでしてくれるの!?)

 紳士が淑女にする手の甲へのキスはただの挨拶だ。もちろん、直接手の甲に唇をつけることはない。それでも、ときめかずにはいられない。

 リナリアが消えそうな声で「はい」と返事をして右手を差し出すと、シオンはその手を右手で優しく包み込んだ。そして、優雅な仕草で身体をかがめると、手の甲に顔を近づける。

 シオンの動きに合わせて美しい金髪がサラサラと流れた。少し伏せた紫色の瞳がとても色っぽい。幻想的なまでに美しいその光景に見とれていると、手の甲に柔らかい感触がした。

「?」

 見るとシオンの唇がリナリアの手の甲に当たっている。

「……え?」

 驚きすぎて漏れたリナリアの声を聞いてシオンは手の甲へのキスをやめた。顔を上げたシオンは、イタズラをした少年のような笑みを浮かべている。

「で、殿下!?」

 リナリアが慌てて右手を引っ込めると、シオンは名残り惜しそうな表情まで浮かべた。

(罰ゲームのためにここまでするなんて……役者すぎるわっ!)

 シオンの演技の才能が恐ろしい。

「リナリア嬢、明日もまた私と会ってください」

 そう言いながら、シオンはリナリアの背後に視線を向けた。その先には、先ほどリナリアを呼びに来た王子の護衛の男子生徒がいる。

「護衛のゼダと言います。彼に呼びに行かせます」
「分かりました」

 リナリアがコクンと頷くと、シオンは「名残り惜しいですが」とお世辞を言いながらリナリアに背を向けた。

 シオンとその護衛の背中が見えなくなるまで、リナリアはその場に立ち尽くしていた。

(なに、これ……?)

 今なら満面の笑みで最低男サジェスに抱きついてお礼が言える。それくらい、リナリアは幸せな気分だった。

 夢かと思い頬をつねると確かに痛い。

(私、今日のことは一生忘れないわ)

 先ほどの美しいシオンを思い出しながら、リナリアは首をかしげた。

「そういえば、シオン殿下は、どうして別学年のネクタイをつけていたのかしら?」

 シオンの学年のネクタイは青色だ。それなのに、シオンは緑色のネクタイをしていた。緑は、兄ローレルの学年のネクタイだ。

(ローレル殿下のネクタイと間違っちゃった……わけはないよね?)

 不思議に思ったものの、リナリアは「まぁ、そんな細かいことは、どうでもいいよね」と軽く流した。
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