罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~
31 【伯爵令息次男サジェスの後悔①】
サジェスは、シオンの護衛に連行されるように王家の馬車に押し込められた。護衛は馬車には乗らなかったので、馬車の中はサジェスとシオンの二人きりだ。
あのあと、折られた腕は、すぐにシオンの護衛により応急処置をされた。今は当て木を当てられ布で縛って固定されている。
折られたときほどの激痛ではないものの、腕の痛みはひどい。
しかし、今のサジェスは折られた腕より、心のほうが痛かった。
先ほど聞いたシオンの言葉がずっと頭の中で回っている。
――リナリアってさ、はじめは君のこと『ケイトのお兄さんって優しそうで素敵ね』って言っていたんだよ。
――君が何もしなければ、あと数年で君たちの婚約が決まっていたかもね。
(モブ女……リナリアは、俺のこと素敵だって思ってくれていたのか……)
勝手に邪推しずっとリナリアに見下されていると思っていた。
(俺が、リナリアにあんな態度を取らなかったら、リナリアと俺は……)
リナリアと仲睦まじく微笑み合っていたかもしれないと思うと、また心が痛んで涙が溢れた。
(俺はリナリアのことが好きだ)
ようやく自分の本当の気持ちに気がつけたのに、もう全てが遅かった。
馬車の向かいに座るシオンを見ると、シオンは背筋が凍るような冷たい笑みを浮かべてこちらを見ていた。その瞬間にサジェスはようやく理解した。
(コイツも、コイツもリナリアのことが好きなんだ)
リナリアは『私がお願いしてシオン殿下に遊んでもらっているの』と言っていたが、恐らく事実は違う。
その証拠にシオンの瞳は、嫉妬に狂った男そのものだ。
気がつけばサジェスは自分の置かれている立場も忘れて、「殿下はいつからリナリアのことが好きなんですか?」と聞いていた。
「十年ほど前からだよ」
あっさり答えが聞けたが、その予想外の長さにサジェスは驚いた。
「リナリアに付き合ってもらうのに、十年もかかってしまった」
口ではそう言いながらも、シオンの顔には先ほどとは違い幸せそうな笑みが浮かんでいる。
シオンのことを、うらやましいと思う前に、サジェスは『十年も片思いの苦しさを味わっていたのか』と感心してしまった。
(俺とは、年季が……違う)
馬車がサジェスとケイトが住んでいる、ライラック伯爵家の邸宅に着くと、シオンはサジェスを蹴り馬車の外に出した。
「君のご両親には私から伝えておくよ。転校先が決まるまで君は学園には来ないでね。もし、学園で君を見かけたら残った腕も折るから」
ニコッと微笑んだあとに、シオンはスッと表情を消す。
「もし……君がリナリアをあきらめずに、付きまとったり告白でもしたりしたら、今度は君の妹に責任をとってもらうからね?」
その言葉を聞いて『冗談ではなく、この男なら必ず実行する』とサジェスは確信した。
「はい、殿下。もう二度とリナリアには近づきません」
そう誓う以外に、サジェスに残された道はなかった。
*
それから数日後。
あっと言う間にサジェスの転校が決まった。
シオンから連絡を受けた両親と長男は、治めている領地から慌てて都心にある邸宅に駆け付けた。
両親には「サジェス、いったいどういうことだ!?」と問い詰められたが、今さら言い訳をするつもりもなく、サジェスは「シオン殿下からご連絡があった通りです」としか言わなかった。
ただ、両親も兄も「お前の口から真実を聞くまでは、例え殿下の指示であろうと従わない」と言って、根気強くサジェスが話すまで待ってくれたので、サジェスは仕方なく『リナリアが好きだったこと』『相手にしてもらえず、リナリアの気を引きたくて罵倒し、いじめていたこと』『リナリアを無理やり押し倒したこと』を話した。
両親はあきれてため息をついたが、父に「今はそれが愚かな行為だと気がつけたんだな?」と聞かれたのでサジェスが頷くと怒られはしなかった。左腕をシオンに折られていたので、すでに罰は受けたということらしい。
長男は「サジェスは、昔から女性に囲まれて嫌そうだったもんな。ケイトの嫌な友人関係もお前に任せきりだったし……。子どものころに、女性の嫌な部分をたくさんみて、女性嫌いになっていたのかもな。気がついてやれず悪かった」と謝られた。
(いっそのこと、俺の愚かさを怒鳴って責めてくれたほうが気が楽になるのに……)
両親と兄の優しさで、よりいっそう己の愚かさが浮き彫りになり、リナリアへの罪悪感がさらに募っていく。
サジェスの頬を叩いたケイトは、あの日からサジェスを徹底的に無視していたが、『サジェスは、本当はリナリアのことが好きだった』と両親から聞いたようで話しかけてきた。
「お兄様は、バカですか?」
「……そうだよ」
自分がバカなことはもう痛いほど分かっている。
「リナリアは、最初、お兄様のこと素敵ねって……。私、それを聞いてお兄様とリナリアが結婚したら嬉しいなって思っていたのに……。言ってくだされば、お兄様の恋を応援したのに!」
ケイトの言う通り、この恋はとても簡単なことだった。
サジェスが一言ケイトに『リナリアってこが気になるから、俺に紹介してくれないか?』と言えば、サジェスはリナリアと付き合うことができたかもしれない。
今となっては、それはあり得ない未来だった。しかし、とても簡単に愛おしい女性を手に入れられる可能性があったことが、サジェスを後悔させ苦しめ続ける。
(ああ、でも、もしそうなっていたら、俺、シオン殿下に殺されていたかも……)
そう自嘲すると、サジェスは、この地獄のような失恋の苦しみが少しだけ薄れるような気がした。
あのあと、折られた腕は、すぐにシオンの護衛により応急処置をされた。今は当て木を当てられ布で縛って固定されている。
折られたときほどの激痛ではないものの、腕の痛みはひどい。
しかし、今のサジェスは折られた腕より、心のほうが痛かった。
先ほど聞いたシオンの言葉がずっと頭の中で回っている。
――リナリアってさ、はじめは君のこと『ケイトのお兄さんって優しそうで素敵ね』って言っていたんだよ。
――君が何もしなければ、あと数年で君たちの婚約が決まっていたかもね。
(モブ女……リナリアは、俺のこと素敵だって思ってくれていたのか……)
勝手に邪推しずっとリナリアに見下されていると思っていた。
(俺が、リナリアにあんな態度を取らなかったら、リナリアと俺は……)
リナリアと仲睦まじく微笑み合っていたかもしれないと思うと、また心が痛んで涙が溢れた。
(俺はリナリアのことが好きだ)
ようやく自分の本当の気持ちに気がつけたのに、もう全てが遅かった。
馬車の向かいに座るシオンを見ると、シオンは背筋が凍るような冷たい笑みを浮かべてこちらを見ていた。その瞬間にサジェスはようやく理解した。
(コイツも、コイツもリナリアのことが好きなんだ)
リナリアは『私がお願いしてシオン殿下に遊んでもらっているの』と言っていたが、恐らく事実は違う。
その証拠にシオンの瞳は、嫉妬に狂った男そのものだ。
気がつけばサジェスは自分の置かれている立場も忘れて、「殿下はいつからリナリアのことが好きなんですか?」と聞いていた。
「十年ほど前からだよ」
あっさり答えが聞けたが、その予想外の長さにサジェスは驚いた。
「リナリアに付き合ってもらうのに、十年もかかってしまった」
口ではそう言いながらも、シオンの顔には先ほどとは違い幸せそうな笑みが浮かんでいる。
シオンのことを、うらやましいと思う前に、サジェスは『十年も片思いの苦しさを味わっていたのか』と感心してしまった。
(俺とは、年季が……違う)
馬車がサジェスとケイトが住んでいる、ライラック伯爵家の邸宅に着くと、シオンはサジェスを蹴り馬車の外に出した。
「君のご両親には私から伝えておくよ。転校先が決まるまで君は学園には来ないでね。もし、学園で君を見かけたら残った腕も折るから」
ニコッと微笑んだあとに、シオンはスッと表情を消す。
「もし……君がリナリアをあきらめずに、付きまとったり告白でもしたりしたら、今度は君の妹に責任をとってもらうからね?」
その言葉を聞いて『冗談ではなく、この男なら必ず実行する』とサジェスは確信した。
「はい、殿下。もう二度とリナリアには近づきません」
そう誓う以外に、サジェスに残された道はなかった。
*
それから数日後。
あっと言う間にサジェスの転校が決まった。
シオンから連絡を受けた両親と長男は、治めている領地から慌てて都心にある邸宅に駆け付けた。
両親には「サジェス、いったいどういうことだ!?」と問い詰められたが、今さら言い訳をするつもりもなく、サジェスは「シオン殿下からご連絡があった通りです」としか言わなかった。
ただ、両親も兄も「お前の口から真実を聞くまでは、例え殿下の指示であろうと従わない」と言って、根気強くサジェスが話すまで待ってくれたので、サジェスは仕方なく『リナリアが好きだったこと』『相手にしてもらえず、リナリアの気を引きたくて罵倒し、いじめていたこと』『リナリアを無理やり押し倒したこと』を話した。
両親はあきれてため息をついたが、父に「今はそれが愚かな行為だと気がつけたんだな?」と聞かれたのでサジェスが頷くと怒られはしなかった。左腕をシオンに折られていたので、すでに罰は受けたということらしい。
長男は「サジェスは、昔から女性に囲まれて嫌そうだったもんな。ケイトの嫌な友人関係もお前に任せきりだったし……。子どものころに、女性の嫌な部分をたくさんみて、女性嫌いになっていたのかもな。気がついてやれず悪かった」と謝られた。
(いっそのこと、俺の愚かさを怒鳴って責めてくれたほうが気が楽になるのに……)
両親と兄の優しさで、よりいっそう己の愚かさが浮き彫りになり、リナリアへの罪悪感がさらに募っていく。
サジェスの頬を叩いたケイトは、あの日からサジェスを徹底的に無視していたが、『サジェスは、本当はリナリアのことが好きだった』と両親から聞いたようで話しかけてきた。
「お兄様は、バカですか?」
「……そうだよ」
自分がバカなことはもう痛いほど分かっている。
「リナリアは、最初、お兄様のこと素敵ねって……。私、それを聞いてお兄様とリナリアが結婚したら嬉しいなって思っていたのに……。言ってくだされば、お兄様の恋を応援したのに!」
ケイトの言う通り、この恋はとても簡単なことだった。
サジェスが一言ケイトに『リナリアってこが気になるから、俺に紹介してくれないか?』と言えば、サジェスはリナリアと付き合うことができたかもしれない。
今となっては、それはあり得ない未来だった。しかし、とても簡単に愛おしい女性を手に入れられる可能性があったことが、サジェスを後悔させ苦しめ続ける。
(ああ、でも、もしそうなっていたら、俺、シオン殿下に殺されていたかも……)
そう自嘲すると、サジェスは、この地獄のような失恋の苦しみが少しだけ薄れるような気がした。