彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode.1】
「なんだよ、君の魅力は十分分かっているよ。言っただろ、社内の隠れマドンナなんだから」

「だから、そういうことではありません」

「この異動が俊樹さんの耳に入れば、君のために仕事を剣にして社長に抗う可能性がある。俺は俊樹さんを尊敬しているんだ。若いけど、いずれ彼は氷室で大きな仕事をするだろう」

「そうですね……おそらく私の異動は許してもらえません」

 嫉妬深いというのではなく、自分のテリトリーに入れた人間は決して離さない。恋人は溺愛する。実は内緒だが、私のために仕事を調整してしまうところもたびたび見受けられる。

 実は密かに最近おびえている。この間の巧に対する嫉妬も、行き過ぎて巧に不都合が生じやしないかと心配してしまう。まあ、それをやったら私が許さないことくらいはわかっているだろうからないと信じたい。

 「俺にすべて任せてくれないか。俊樹さんには俺が直接話をする。叔父やその他の秘書関係者から話が先に漏れる可能性も捨てがたい。あってはならないことだけどね」

「分かりました。とにかく、私を秘書にしたいと思って下さってると言うことでよろしいですか?肝心のご意見を聞いておりません」

「当たり前だよ。俊樹さんは君から業務部のなんたるかを大分学んだはずだ。次は俺の番。何か問題でも?」

 にっこり笑う新部長。食えない人だ。
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