跡取りドクターの長い恋煩い
内科研修の始まり
「本日からお世話になります、芦田笑美里です。よろしくお願いします!」

「指導医の矢本だ。よろしく。
 俺から言えることは1つ。わからないことは先送りにせず、直ぐにその場で聞くように」

「はい!」

「内科は全ての基本だ。だから初期研修の中でも最長の半年間の必修科になっている。
 内科と言っても多岐にわたるからな。
 ちなみに君はどこを考えてるの?」

「私は産婦人科を希望しています」

「そうなのか⁉」

 そう。私が目指しているのは産婦人科医だ。
 実家は兄が内科医として継ぐことが決まっていて、私は自由に科を選べる。
 だったら漠然と女性の役に立ちたいと考えていた。

 女性のデリケートな部分を晒す内診は、受診する側にとって少なからず精神的な苦痛を伴う。それが男性医師なら尚更だ。
 大学の実習で、私が受診するなら絶対に女医がいい! と思ったのがきっかけだった。

「そうか! それはいいな。
 もちろん内科に来てくれるならそれも嬉しいことなんだが。
 産婦人科ではやっぱり女医さんが人気でね。予約の時、女医指定をしてくる患者は多いんだ。そりゃ、同性に診てもらった方が気が楽だよな」

「……まあ……」

 ここで本当に同感だと思っていても頷けない。ご本人は男性医師なんだもの。内科医だったとしても否定することになるわ。
 でもなんで産婦人科のことを力説してるんだろう。

「ああ、説明不足だったな。
 実は嫁さんが2人目を妊娠中で」

「ああ、なるほど」

「1人目の時からどうしても女医がいいと言うから、この病院で唯一の女性産婦人科医に無理言ってお願いした。実はこの周辺では産婦人科の女医が少なくて……」

 そうなんだ。
 じゃあ少しでも早く女性の皆さんのお役に立ちたいな。
 ……と言っても、初期研修プログラムが終わるのは2年後だけどね。
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