「ご入内、心からお慶び申し上げます。」

内裏の弘徽殿に着いて、今にも嬉し涙を零しそうに言うのは、私の乳母です。

早くに母を亡くした私ですが、この乳母が愛育してくれました。


「こんなにもご立派に成長なさって、東宮様の女御様となられたご様子を拝見するだけでも、有り難くて涙で目もよく見えませんわ。

しかし、これで万事上手く済んだ訳ではございませんよ。

まだまだ深い嗜みを身つけなければならないのですからね。」


「分かっているわ。

どうすれば東宮様のご寵愛を頂けるのか、嘗ては世の男性を惑わせたあなたから学ばなければなりませんものね?」

そう言ってからかうと、

「まあまあ、」

などと言って恥ずかしがっています。

女房から聞いたのですが、乳母は、若かりし頃は大勢の男性から求婚されて大変だったそうです。


…それにしても本当に、東宮様とお会いした時には私はどうすれば良いのかしら…。


恥ずかしくて、乳母にも訊けません…。



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