雪国の春
伝えられずにいる気持ち

16歳の冬

 私、草薙沙雪(くさなぎさゆき)16歳は今、恋をしている。

 「すっごい雪ですよね」
 「ま、雪国だしな」
 「そりゃそうですけど」
 「早く解けるといいよなー」
 「んー…」
 
 今年の雪はまだ溶けて欲しくないな、なんて思いながら先輩の背中を追って、歩き難い雪道を必死に歩く。
 小学生の頃は、スキーウエアに長靴で登下校してたからこんな雪道なんでもなかったのにな。
 
 「ほら、早くしないと遅刻だぞ」
 「はい!」
 
 つかつかと前を歩く先輩は、ちらちらと私を何度も振り返りながら歩いてくれてる。
 
 やさしいな、やっぱり。
 
 私と先輩が出会ったのは、今年の春。
 入学したての私が、教室を探して迷ってた時に助けてくれたのが先輩だった。
 
 それから先輩目当てで同じ部活に入って、話したら家が近いことがわかって。
 部活終わりなんかに一緒に帰るようになって、朝は偶然を装って一緒に登校したり。
 
 ようやく仲良くなれたって思ったら、もう冬が来ていた。
 
 雪が解けたら先輩は卒業してしまう。
 
 雪国で生まれ育って16年、私は初めてこのままずっと雪が溶けなければいいと真剣に願っていた。
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