色恋花火
―01―

『え?七夕祭?』


むせ返るような熱気と人混みの中、あたしは電話越しの彼がここへやってくるのをずっと待っていた。

ところがだ。

待ち合わせ時間二時間ほどを過ぎても、一向に姿を見せる気配がないので、こうして電話をかけている訳なのだが。


『そんな約束してたっけ?』


彼…拓馬のその一言で、あたしの心はガラスが地面に落ちて割れていくかのように粉々に砕け散った。


だって…

だって…


あんまりじゃない?


今日この日の為に浴衣を新しく新調して

わざわざ美容室で髪の毛もセットしてもらって

勝負下着もバッチリはいて

準備万全気合い入れまくって来たって言うのに…。


「約束したじゃん!先週!しかも昨日だってメールしたよ!?返って来なかったけど!」

「あぁ、わり。昨日はユーキ達と遊んでたんだわ」


………この扱い。

本当にあたしはあんたの彼女なんですか?

待ち合わせ時間二時間も過ぎてやっと連絡着くとかありえなくない?




「いますぐ来て!どうしても行きたいの!」

『はぁ?やだよ、めんどくせー。何で女って祭とか花火大会とかあんなもんが好きかねー』


怠そうにため息をつきながら頭をボリボリと掻いている拓馬の姿が目に浮かぶ。
悔しかった。

普段めったにこんなワガママ言わないのに
それさえも聞いてもらえないなんて…。

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