恋する旅のその先に

 流れ星を見た。

 上司にミスを怒られて落ち込みながら歩いていた会社からの帰り道の途中。

 街灯はまばらで、女がひとりで歩くにはちょっと怖いそんな道。

 右肩にはバック。

 左手にはコンビニの袋。

 一方は明日再提出を言い渡された書類が入っていて。

 もう一方には缶ビールと“チーカマ”。

 末期症状的な組み合わせ。

 まだね、かろうじて“20代”を公言出来るけれど。

 カレンダーを部屋に置かなくなって久しい。

 そんな私だから、この夜空のプレゼントに子供みたく気持ちがはずむのは仕方のないことでしょう?

 人目がないのをいいことに軽くスキップなんかしたりして。

「クスッ」

「え?」

 背後から聞こえた声に、片足を上げたままで固まる。

 油の切れたロボットのようなぎごちない動きで振り返ると、スーツ姿の男性が、

「すみません。邪魔するつもりはなかったのですが……」

 そういってバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。

 うそ。

 やだ。

 みられた?

 いや、みられたよね。

 滑稽なポーズをとったままマネキンのように固まって冷や汗をかく。

 入れる穴はあいにくと見当たらなくって。

 みるみるうちに体温は急上昇。

「どうぞ、お気になさらず」

 どうも、お気になります。

 これで気にしない性格なら流れ星でスキップなんてしませんよ。

 なんて返そうと思ってはみるものの、私の口はブレーカーが落ちたらしい。

 と、

「流れ星は、天からの賜り物ですから」


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