ほどよい愛
両親はふたりとも建築家で、その日も手掛けた物件の確認をしに行った帰りだった。

「光がいっぱい入って螺旋階段もある素敵なおうちなのよ…」

「螺旋階段って何?」

「くるくる回るまき貝みたいな階段よ。降りてくる時には下で新聞読んでるお父さんが見えたりして楽しいの」

「楽しいんだ。葵のおうちには作らないの?」

「うふふ。葵がお嫁に行く時には新しいおうちに螺旋階段を設計してあげるわね。もちろん透がお嫁さんをもらう時もね」

そう言って幸せそうに笑う母と、

「葵の花嫁姿か~。やっぱり寂しいよ」

と複雑な笑みを浮かべる父。

出かける間際に

「おみやげ買ってくるからね」

これが、幸せだった子供時代に聞いた両親の最後の言葉。

それからは、

愛している人が突然いなくなる不安と、全く変わってしまった生活の中にいつもつきまとう悲しみを隠しながら過ごしている。

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