この世で一番大切なもの
目の前には厳しい現実が広がっていた。

俺を紹介してくれた先輩ホストのユウタも、三ヶ月でクビになってしまった。

ほとんどのホストが三ヶ月でクビになる。

生き残るのはわずかだ。

俺の売り上げは二ヶ月間ほぼゼロ。

指名してくれた客はいたが、少しの金額しか使わないし、すぐに飽きられてしまい店にきてくれなくなった。

後一ヶ月。

今月小計十万売らなければクビだ。

俺はどんな手段を使っても生き残ろうと決心した。

俺は人殺し。

ホストの世界で成功しなければ何になればいいのだろうか。

まともな仕事にはつけない。

就職できたとしても、俺のような学歴のない資格もない人間は、せいぜい稼げても月二十万。

バカらしくてやっていられないだろう。

かといってヤクザになりたくはない。

俺は塀の中には二度と戻りたくはない。

四年間獄中で、外の世界から遮断された暮らしをした。

狭い部屋で何度も精神崩壊しそうになった。

孤独に耐え切れず、数え切れないぐらいの涙を流した。

俺が生きていくにはホストで成功するしかない。

俺は自分にそう言い聞かせた。

みんなが寝ているとき、寮のトイレにこもる。

カッターで自分の腕を傷つけた。

もう後戻りはできない。
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