この世で一番大切なもの
第九章
午後一時。

俺はセントラルの喫茶店で女を待つ。

夕方の営業開始時間まで後六時間もある。

不眠だった。

なぜ寝ないのか。

同伴する為だ。

同伴するのは確実に女を店に呼ばなければならないからだ。

失敗は許されない。

普通ホストにとって客と外で会うのは損が多い。

外で会えば他の客に見られて、後をついてこられたり会話を聞かれる危険性もある。

色恋をしているならば、女は自分のことを彼女だと思い込んでいるので手を繋ぎたがる。

外で会えば飲食代など掛かるし、女に払わせても店で使う金が減る。

時間ももったいない。

寝る時間も減る。

疲れも溜まり得なことなど全くないのだ。

ただ、普段外で会うのを断っているので、確実に女は外で逢いたいと思っている。

それが結局は店に行くことになる同伴だろうが、女は空腹にエサを出された獣のようにやってくる。

寝不足で真っ赤な目を掻きながら待っていると女がきた。

「お待たせ~」

「待ってないよ。まま座りな。何飲む?」

「私自分で買ってくるよ」

「いいよ。コーラでいいな?」

「う、うん。ありがとう」

俺は強引に決めさせ席を立った。

ここの店はセルフサービスだ。

ホストやキャバ嬢、ヤクザやホームレスで溢れている。

強引に俺が決めさせたのは女は男に引っ張ってもらいたいと思っているからだ。

優柔不断な男はモテない。

それはたった三ヶ月になろうとしている短いホスト経験で痛いほど分かったことだ。

「ほらコーラ」

「ありがとう。はいお金」

「いらねえよ」

「えっ、払うよ」

「いいよ。店きてもらうしさ。金しまえ。てか痩せたな」

「ほんと、嬉しい!ダイエットしてるからさ。結果出てきたんだね!ワ~イ」

実際は痩せたなんて感じていない。

内心では、このデブスが・・・と思っている。

だが俺はホストとして生きていきたい。

その為なら嘘なんていくらでも言うし、何だってやってやる。







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