この世で一番大切なもの
第十一章
これを狙っていた。

この時を待っていた。

俺は女が寝たのを確認する。

ぐっすり眠っている。

レイヤが耳打ちしてくる。

「隣の席の客がトイレでも行った時、カバン開けてカード抜き取れよ」

「はい。ありがとうございます」

レイヤは席を離れた。

売れない先輩ホストも離れた。

俺はじっとチャンスを待つ。

しばらくして隣の客はトイレで席を立った。

これで誰にも見られない。

今しかない。

俺は女が起きないようにそっとカバンを開ける。

音楽がガンガンにかかっている店内だが、音が出ないように注意した。

財布を取り出す。

急がなければ隣の客が戻ってくる。

俺はさっとカードらしきものを何枚か取り出し、カバンに財布を戻す。

そしてすぐに入り口の受付に行く。

座って雑誌を読んでいる内勤の直也がいた。

「おうリュージ、レイヤから聞いてるよ。早くカード貸してみ」

直也に俺が持ってきたカードを渡す。

「リュージバカだなあ。こんな持ってきて。銀行のカードとか混じってるじゃん(笑)おっこれだこれ。覚えとけ。こういうのがクレジットカードだ。でもこれは限度額が三十万だな。何も買ってなけりゃあ三十万使えるよ。いくら使う?」」

「使えるだけお願いします」

俺に迷いはなかった。

このカードが使えなかったら終わる。

どんな手段を使っても生き残る。

そうしなければならない。

神よ許せ・・。

そう心で懺悔した。







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