粉雪2-sleeping beauty-
―カタン!…

「―――ッ!」


物音がして振り返ると、後ろには千里が立っていた。



『…おはよう、マツ…。
何やってるの…?』


寝起きの虚ろな顔を傾け、聞いてくる。



「…書類とかな。
てゆーか、何でこんなに早起きなんだよ?」


『…朝ご飯作る約束してたから。』


「…あぁ、もぉそんな時間か…。」


言われて時計を見ると、いつの間にか朝の6時になっていた。


締め切っていたカーテンからも、麗らかな朝の光が反射している。



『…寝てないの?』


キッチンに向かいながら、千里は小さく聞いてきた。



「気にするなよ。
別に、いつものことだし。」


立ち上がり、背筋を伸ばした。


体中が軋むように痛い。


電気をつけられると、その眩しさに少しだけ目を細めた。



キッチンからは、カチャカチャと音が聞こえてくる。


対面式のキッチンで目が合うと、千里は少しだけ笑っていた。




俺はただ、こんな光景を守りたかっただけなんだ…。


俺んちのキッチンで、俺の為に朝ご飯とか作ってる千里が、堪らなく愛しく思えた。



お前はその細い体で、必死に抱え込んでいるんだもんな。


そしてその細い腕で、重すぎるものばかりを背負っている。


そんなことを考え出すと、いつも胸が苦しくて。


“弱いのは俺だ”って、嫌でも感じさせられるんだよ。


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