千里ヶ崎の魔女と配信される化け物





インターホンなんていう便利なものはなく、獅子がくわえた鉄の輪を扉に打ちつける。

ゴン、ゴン、と重厚な音が響く。それは、この屋敷がここに、どれだけの長さ建っているかを物語るような奥深さだ。

千里ヶ崎さんには、「何度もノックしなくても、香蘭は気付く」と言われている。なんでも彼女は、館のどこにいてもノックに気付けるらしい。

ややあって、扉が開いた。短い三つ編み、チャイナ服に割烹着というちぐはぐな格好の香蘭さんが、出迎えてくれる。

「あら、皆川さまぁ」

「どうも、こんばんは」

「こんばんはあ。どうぞ、お入りくださいなあ」

招き入れてくれた香蘭さんは、すたすたと歩き始める。

千里ヶ崎屋敷は古風な洋建築で、正面には幅の広い階段、踊り場通路には絵画が並び、深紅の絨毯に頭上のシャンデリアと、かなり豪勢だ。

だから、香蘭さんの格好が浮いて見える。なんでも、「ミシェルさまのお言いつけ」らしいけど。

「皆川さまあ」

と、香蘭さんが振り返った。体ごと。

そしてにっこり。

「どうぞ、ミシェルさまのところへ行かれてくださいなあ? 私は諸事ございますゆえぇ。きっと、書庫か書斎にいらっしゃいますよぉ」
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