千里ヶ崎の魔女と配信される化け物





「いったいなんだったんですか」

と、僕は本を片手に訊ねた。

一階にある、書庫でだ。日が暮れた今や、天窓からは月光が降り注いでいる。

「ケータイの危険性だったんだよ、最初はね」

と、千里ヶ崎さんは答えた。

例の化け物を吸い込んだ手帳を片手で持ち、長ソファーに横たわっている。長い黒髪が、腕や首、胸、股なんかに流れていた。

「は? ケータイ?」

「つまり、人間が手にし、長時間使うものほど、恐怖の対象となった時の危険は計り知れない、という話だったの」

「はあ……」

ここへ来る前、坂道に女の人が倒れていたのを話した。

けれど彼女はとてもあっさりと、まるでそういうことがどこかで起こっていると知っていたように、「それは『途中経過』だったのだよ」と言っただけだった。

わけがわからなかった。

ボーン。
ボーン。
ボーン。
ボーン。
ボーン。
ボーン。

と、柱時計が鳴る。

あれ? と首を傾げた。

「千里ヶ崎さん、あの時計、壊れてませんか?」

「うん?」

「もう十時になるっていうのに、鐘が六回しか鳴りませんでしたよ」

「ああ。それはね、壊れてくれたの。君じゃない君が来た時に、ね」
< 32 / 34 >

この作品をシェア

pagetop