不可解な恋愛 【完】
Final Episode



ディスプレイに表示された、杏奈のフルネーム。

性急に電話に出る。そんな俺と打って変わって、受話器の向こうはとても穏やかだった。



声の相手は、杏奈ではなかった。

知らない男の声が、「神崎様でいらっしゃいますか」と俺の名前を知ったように呼ぶ。

柔和な喋り方の男。こいつがもし学校の先生だとしたら、午後の授業はクラス全員が眠ってしまうだろう。



誰だと問うと、彼はとある病院名を言った後に医者だと答えた。






「白石杏奈さんをご存じでいらっしゃいますか?」


「知ってますけど」


「実は…一昨日の明け方に、お亡くなりになられました…」


「…はい?何の話ですか?」


「白石さんがこちらの病院に入院されていたことはご存じなかったですか?」


「知らねぇよ。だいたいどこなんだよその病院」






杏奈が死んだ?悪い冗談はやめろ。

強くなる口調に、受話器の向こうの男が怯む。
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