桃園むくげXX歳である。
桃園むくげ、16歳である。
突然で恐縮である。

朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳からはじまり
蟻地獄を潰すことに熱中した8歳を経て
理科の授業で出会ったロートに恋をした12歳はとうに過ぎ。

今は金管楽器をはじめとするあの円錐状のラッパが気になる。
将来は円錐ピラミッドを彼と見に行くのが夢になった

桃園むくげ、16歳である

よろしく。

円柱や立方体ではダメ。
ぎゅっと1点に集められたその頂点──奥の奥に
大切な何かがあるのだと悟っていたのだ。

男たちが望む私の奥の奥は
私の嗜好とは違う性なのかもしれないのだけれど。
彼も同じなのではと同士を求めて広げてみせる。
さらけ出したものを拒否されて傷つくのは
桃園むくげといえど、正常な女子の反応なのだと主張しておきたい。

脳を麻痺させる程優しい言葉をかけて
心臓をわしづかみにするほど嫉妬をさせられて
この思いをはき出すトランペットはどこに。

ひとにとって脳とは心臓と同じくらい大切なはずなのに
無防備すぎるロートに囲まれている。
心は脳にあるのだとしたら
聞きたくもない話も濾過してしまうこのロートを塞いでしまいたい。
何も聴かず、何も食べず、何も見ないでしまいたいのだけれど。

心臓はどこにも口があいてない。
体の奥の奥に大事にしまわれているではないの。
だから失恋したとしても、毒が回らない限り死んだりはしないのだ。

耳から脳へは直通だ。
音のロート、耳殻の奥へ
ぐるぐる蝸牛が待っていて
その奥はもう脳ずい。

防ぎようもない、おろしいほどの至近距離。

16歳の夏の終わりに
高校の裏で同級生の死体が見つかった。
耳と口から、こってりとした赤い液体を流して伏していた。
鼓膜を割って、突き抜いて、桃園むくげの奥の奥を覗いた代償に
奥の奥を掻き出した。

この先も異常な嗜好を理解する人はおそらくいないだろうけれども
桃園むくげ、16歳である。

よろしく。
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