桃園むくげXX歳である。
桃園むくげ、21歳である。
 円錐菓子「とんがりコーン」を指にハメた6歳
 棘の形をしてこそ、女の心構えと知った20歳
 
 それらの感情が「円錐」に機縁することに気づいたのはいつの頃だったか。 
 桃園むくげ、21歳である、よろしく。

 悪役ほど円錐が似合うものはいない。
 ディズニー映画ならヴィランズである。
 『有明の君』は「マリオのクッパ様も円錐背負ってます」などと亀押しをしてくる。
 彼はいい男だろう。ピーチ姫にあそこまで一途であるのだから。
 
 今私は彼女とネイルサロンにいる。
 幼い頃、指にとんがりコーンをはめたという話をして、そこから話が逸れたのである。
「スカルプをすれば、大人になっても疑似とんがりコーン、できますけどね」
 ネイリストはそう言って、私の爪先を潤んだピンクに仕上げていく。
「やってみたいけど、仕事ができなくなるからな。大人とんがりコーン、やりたいけど」「今お姉様、2回言った。本当にやりたいんだ」
 最近彼女に、私の本心を把握されている気がしてならない。
「私も一度アートネイルやってみたいですけど、ゲームしにくくなるから」
 ぶれないゲーマー女である。

 ともあれ私の指と、そして爪は、一般的容姿である。
 細く長い指であればそれは美しかろうが、これでも桃園むくげ、一般人の自負は誰よりあるので、盛った話はしないことにしている。
 だが一般的なこの手も、ネイリストの施術で見違えるような個性を放つものだ。
 これは客から聞いた話であるが、女子が爪を隠すようにして両手をハの字にして組む、という仕草は「あなたに危害を加えません」という意思表示らしい。

 爪とはつまり女の武器である、手入れは怠りなくあれとそういうことだ。
「あおいさん、すこし長さ出してみます?」
「うん」
 少しツンと済ましたドロップ型の爪は、円錐形にはほど遠いが爪の中には大好きな円錐型がジェル・アートされている。樹脂の爪先で、グラスの曲線を撫で、その先にある手の甲をなぞってみよう。
 私にも、相手にも背筋が伸びるような煌めきがやってくる気がする。
 この優しいピンク色をどこかで見る度に私を思い出せば、それは本気の恋なのだと囁いてみよう。

 とんがりコーンをはめた指を舐めた時のように、塩味はしないけれど、唇に添えたジェル・ネイルは冷たく固い質感がした。

 爪を変えた。少しヴィランスの香り。

 桃園むくげ、21歳である、よろしく。
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