桃園むくげXX歳である。
桃園むくげ、14歳である。
麗しの逆円錐体型様

拝啓

朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳
理科の授業で出会ったロートに恋をした12歳

円錐という形に究極美を見いだして、異常なくらいに恋をした。
義務教育最後の砦、中学。
1年で円錐の面積の出し方を覚え久しぶりに私の人生が輝いた。

桃園むくげ、14歳である。

よろしく。

本来この年齢で輝くべきは円錐ではなく恋の話で
皆様もそれを期待しておられるだろうから
むくげが"逆円錐体型"のイケメンに
初めて告白メィルを送った時の話をしよう。

それはそれは見事な逆円錐で
惚れ惚れする美しさだったのである。

部活の練習中に三角カラーコーンを反復横とびする姿は
女子たちの、黄色い声の標的であったが
私の告白メィルこそが彼の心臓に軌跡を残したのは
言わずもがなである。

しかし幼い恋は円錐を三角形と間違えるほどに
肉厚のない未熟なもので
私と逆円錐体型の恋は短く朽ちた。
面積の求め方を誤った。
ダメな男だったのである。

桃園むくげ、14歳。
香りは林檎、風に揺れるスカートは膝上10cm
細く長く白い四肢は蜜の味。
男は蜜には飽きて、チョコを求めて旅立った。
その手に私の恋文を残し、ちらつかせ
蜜の味をなめたことをスティタスにしながら。

恋文は紙にてしたためるべし。
あのように生々しい思いを、今生まれたかのようにメィルとして残しては。

14歳の冬の終わりに
卒業式会場の裏手で、卒業生の死体が見つかった。
義務教育を終えて去る男の胸に格段大きな赤い花。
花から色がこぼれどくどくと、冬の土を赤くした。
数々の黄色い声を収録した恋文アンソロジーであるケータイは
最後まで見つからなかったそうだ。

卒業生でもないのに赤い花びらでいっぱいの私の手には
蜜月を瞬間冷凍した懐かしきメィルたち。

恥じらいある言葉たちに
我ながら青臭いと思うのである。

桃園むくげ、14歳である。

よろしく。

間違えた。

敬具
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