ぼくたちは一生懸命な恋をしている
3.隼
俺は、秋山隼。

可愛い女の子が大好きで、女の子のほうも結構俺のことを好きになってくれるんだ。
つまり、俺は、モテる。ずっと、学校で一番人気があるのは俺だった。もちろん高校でも一番になる予定だったんだけどね。
まさか、超売れっ子の芸能人が同じ高校に入学してくるなんて、夢にも思わないじゃない?

百瀬かなで。
一時期はテレビで見ない日がないくらい活躍していた、子役上がりの……なんて言えばいいのかな。いろんなことしてるから彼の肩書きってよく分かんないんだけど、たぶんイケメンタレント、でいいのかな?そんな彼が、この普通の学校で、普通に授業を受けてるんだよ?おかしいでしょ!

まぁ、はじめは学校中が舞い上がったよね。先生でさえ浮足立ってたんだから、生徒に騒ぐなって言うほうがムリ。
だって、芸能人を間近で見るのって初めてだったんだけどさ、やっぱ全然違うの。チョー綺麗。顔小さい、肌ツルツル、手足長い、細い、まるで別の生き物みたい。冗談抜きで、見てるこっちの目がつぶれそうなくらいキラッキラしてる。しかも、バラエティ番組で見てた印象そのまんま、すっげぇ人懐っこくて優しいの。どんなにキャーキャー騒がれても、嫌な顔ひとつせずにニコニコ手を振ってくれる。

昔から必ずクラスに何人かいた彼のファンが呼んでいた大層な愛称にはいつも白けてたけど、彼女たちは正しかった。百瀬かなでは、ホンモノの王子だった。

でも面白いんだ。遠巻きに手を振ったりはしゃいだりする女の子はたくさんいるのに、実際に王子へ告白したり露骨なアプローチをしかける子は、今のところ一人も現れてない。どうも、人って本当に美しいものには近づけないみたいなんだ。なんとなく分かるよ。おそれ多いんだよね。太陽に近づきすぎたら溶けちゃう、みたいな。本能に訴えかけてくる恐さがある。

それに、王子は今、学業に専念するため芸能活動を減らしてるらしい。実際あんまりテレビに映ってるのを見なくなったし、その代わり毎日学校で真面目に授業を受けてるみたい。成績も学年トップっていうから驚いた。そこそこ学力レベルが高くて、芸能人への配慮が行き届いてるとは思えないこの学校を選んだのは、本気で勉強したいからなんだな、ってひしひしと感じる。その真剣さが伝わって、学校中の騒がしさも今ではすっかり落ち着いた。

なんにも知らなかった頃は、俺だって結構カワイイ顔してるよ?勉強だってそこそこできるし……なんて張り合う気持ちもあったんだけどさ。王子のことを知った今となっては、そんなもの一ミリも残らず消え失せたよね。比べるのもむなしい。同じ空気を吸ってても、住む世界が違うんだ。

そんなわけで、俺はこの学校で一番の人気者にはなれなかった。だけど、一番モテる男にはなれそうだ。なんでもほどほどが一番。親しみやすいイケメンに産んでくれた親に感謝だよ。
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