Garnet~ガーネット~
予感
「じゃあ川本さん、来週からお願いね」
女性はそう言ってにっこりと微笑んだ。
品の良さそうな、それでいて親しみやすい雰囲気を持った人だった。
「はい、ありがとうございます!よろしくお願いします!」

桜良は深く頭を下げ、出口でもう一度女性に向かって頭を下げて店を出た。
(やったー!!早く報告しなきゃ!!)
足取りは軽やかだった。
何しろ、2ヶ月もかけて探していたアルバイトがやっと決まったのだから。
バッグから携帯を取り出し、慣れた手つきでいつものメアドにメールを送る。
『バイト決まったよ(^▽^)』
返事はすぐに返ってきた。
『よかったな』
「…何よ、それ。そんだけ?」
思わずつぶやいた。
(私がずっとバイト見つからなかったのだって知ってたくせに…。)
桜良はメールを返さなかった。
それが関係を悪化させるとはわかっていても、寂しくて悲しくて腹立たしかった。
涼吾とは付き合って8ヶ月。
お互い、大学の推薦入試が終わった後に付き合い始めたが、最近、やけにそっけない。
メールを送っても一言だけだったり、次に繋げない文章ばっかりだ。
高校を卒業して大学の近くで一人暮らしを始めた涼吾は、新しい環境が楽しいのか桜良のことは二の次。いつも、バイトに行っているか遊びに行っているかのどちらかだった。

最初の告白は涼吾だった。
その時、桜良には彼氏がいたので、最初はもちろん断ったが、同じクラスで毎日接している間に、どんどん涼吾に惹かれていく自分に嘘はつけなかった。
だから今度は桜良から告白した。

初めてキスをしたのは誰もいなくなった放課後の教室だった。
初めてではなかったのに、唇が離れて目が合った時はお互い顔が真っ赤で、夕日に照らされて更に真っ赤なことに二人で笑いあったのを覚えてる。

高校卒業の日。
卒業式の後、クラスの仲良しグループでお別れカラオケ大会をして大騒ぎし、帰るのがもったいなくて公園に寄って皆で遊んでいた。
涼吾は人目を盗んで誰もいない場所に桜良を連れて行き、
「結婚指輪は左手の薬指にするんだっけ」
そんなことを言いながら、不意に指輪をはめてくれた。
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