ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├警護団長の後悔

桜Side
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激しい物音がする櫂様の部屋。


何かが壊れる音。

何かがぶつかる音。


それは依然続いていた。


緋狭様が煌を連れて帰られた後、暫くは重い空気が漂う中、誰も眠ることも出来ず…居間にて黙したまま集っていたのだけれど。


――変な胸騒ぎがする!!!


朝方になって、突如櫂様は立上がったんだ。


――芹霞に何かが!!!!


櫂様に暴走するなと、警告を放ちに此処まで出向かれた緋狭様。


その意味を櫂様も十分判っていたはずだったのに。


緋狭様の抑止を無に還してまで、櫂様は動こうとした。


玲様の結界で安全な、この家から飛び出そうとしたんだ。


それはもう…我武者羅に。


理性派の櫂様とは思われぬ程の、無謀な取り乱し方だった。



――桜、櫂を抑えろ!!!


玲様の一声で、私と玲様…2人がかりで何とか抑えたはいいものの、それでも櫂様の暴れ様は激しく。


――桜、麻酔を持ってこいッッ!!!


玲様の部屋に飛び込んで、アタッシュケースごと居間に運び、麻酔薬を注射にセットしたのを急いで玲様に渡すと、玲様はそのまま櫂様の腕に突き刺した。

即効性のある麻酔注射のはずだった。


それでも思った効果が見られず、櫂様は"行かせろ"を繰り返して、羽交い締めをしている私と玲様との隙間から、玄関に向けて手を伸された。


――芹霞ッッ!!!!


掠れきった悲痛な声だった。


玲様は、瞬間唇を噛みしめて辛そうな顔をし…そして顔から表情を消すと、問答無用で櫂様を引き摺って、部屋に押し込んだんだ。




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