ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├飼い犬の言い訳

 煌Side
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夢を――

見ているのだと思ったんだ。


もし俺が、櫂のような立ち位置で。


誰に遠慮することなく…

我武者羅に芹霞を抱けたのなら。


堂々と芹霞に想いを告げられたのなら。



甘美で陶然とした夢だと思った。


そしてどこまでも悪い夢。


どこまでも心がどろどろとした悪意に満たされ、俺の押さえ込んだ欲望だけが溢れ出す。


本能を突き動かす…情動。


俺は崇めるべき櫂に歯向かい、

嫉妬心丸出しで睨み付けた。


それはもう…気持ちいいくらいに、どろどろとした感情を露にして。


どうやって芹霞を手にしてやろうか。


――流されないで、煌。


時々、本当に夢か判らなくなったけど、


――真実と虚偽の区別くらい、できるでしょ?


俺の戸惑いを見透かしたような芹霞を、


――うるせえよっ!!


抱きしめた身体は熱さを孕んで。



ありえない。


芹霞の心臓がこんなに早いなんて。



ああ、やっぱり夢だ。

すげえ嬉しい俺の夢だ。



桜の衝撃に光が飛んだ。


そして思う。


俺は、夢の中の夢にいたのだと。


現実であるならば、夢の延長線に世界は構成されないだろう。


どこまでも違和感なく紡がれ続ける世界に、これも夢の中なのだと俺は急に陽気になって。


覚めることがない夢に嬉しくなって。


夢だから許されると、

体を動かしながら邪な想いばかりを考えて。



膨れ上がる邪念に――

俺は溺れたんだ。


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