Separate World
第一章

神隠


ジリリリリ――……


鼓膜が破れそうなほど大きい目覚まし時計の音が静寂を破り、部屋中に鳴り響いた。


その音に、布団にくるまっていた少女が飛び上がり、不機嫌そうに目を開ける。


――もう、朝?


少女はベッドの脇に置いてある目覚ましのアラームを止めて起き上がった。しかし、眠そうに顔をしかめており、目などほとんど開いていない。


「ねむ……」


少女はベッドの上に座ったまま、こっくり、こっくりと頭を揺らしていると、遠くから階段を上ってくる音が聞こえた。……それでも少女は起きない。


その次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、一人の女性が入ってきた。


「蒼依[あおい]、学校遅れるよ。本当に寝起き悪いわねぇ。もう中二なんだから、しゃんとして!お母さんも仕事行かないといけないから!」


蒼依の母親は部屋のカーテンを開けながらそう言うと、いそいそと一階へ降りていっった。そして、母親の足が一階の床を踏んだ時、ようやく蒼依が目を開けた。


蒼依は大きな欠伸をすると、のそのそと布団から出て移動し、制服に着替えて学生鞄と教科書を抱えながら一階に降りていく。


リビングに入ると、母親はすでに蒼依の朝食をテーブルに並べ終え、自分の仕度に取り掛かっていた。


蒼依がテーブルにつき、朝食のパンをかじり出した時、つけっぱなしのテレビから女性アナウンサーの声が流れた。


『今日未明、参議院議員の竹岡充氏に収賄疑惑が持ち上がり……』


蒼依がチャンネルを変えると、今度は男性アナウンサーの声が響く。


『……消費期限偽装問題で、本日、責任者の槙田氏らが会見を……』


さらにチャンネルを変えると、また別のニュースが流れた。


『……の父親をバットで殺害したとして、十六歳の少年が……』


――朝からこんな話ばっかり。気分落ちちゃうなぁ。


蒼依がそう思った時、ソファーに座りながら化粧をしていた母親が思い出したように口を開いた。


「蒼依、今日塾よね? お母さん、仕事で遅くなるから先にご飯食べちゃって」


「はぁい」


蒼依は気のない返事をし、ぼぉっとしたまま朝食を食べ終えると、持って降りてきた教科書を鞄に詰め込み始めた。

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