あひるの仔に天使の羽根を

・予感 玲Side

 玲Side
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「お姉ちゃん? 

それとも……違うの?」


"約束の地(カナン)"の"混沌(カオス)"の岸辺に一番先に辿り着いたのは僕だった。


遠泳故に不整脈を訴えた心臓の落ち着きを待っていると、後方から声をかけてきた小さな子供…旭。


いつからそこに立っていたのか。


気配を悟れなかったのは、騒がしかった僕の心臓のせいか。


覗き込んでくる澄んだ瞳に映る僕は、どこをどう見ても女性で。


灼熱の太陽で乾いた女服。


そして由香ちゃんの自信作……栗色の特殊鬘(ウィッグ)は、海の水圧に耐久性があったらしく、女性の一部のようにさらさらと僕を彩り。


"男"じゃない。


何だか、無性に鬘を脱ぎ捨てたい衝動になった僕は、


「お姉ちゃんなの?」


尚も不可解な問いを発する旭を見て、動きを止めた。


それは僕本来の髪の長さが、ふわふわの服に似合わないからとかの理由ではなく、


――それとも……違うの?


先にそう聞いた旭の顔が嫌悪に歪まれていたからで。


もし。


性別を問うならば、"お姉ちゃん、それともお兄ちゃん?"と聞くのではないだろうか。


それは予感で。


少なくとも、初対面で性別を強調されるのは違和感があった。


"お姉ちゃん"でなければ不都合なことがあるのだろうか。


そして、この地の先住者がこの子供以外に見当たらないという不可思議な状況も、僕に違和感を感じさせた。


僕の勘が、何かを告げている。


郷に入らば郷に従え。


僕は女性として振る舞う方が得策だと判断した。



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