あひるの仔に天使の羽根を
~ 天使 ~
横須賀城ヶ島の更に南、相模湾に浮かぶ特例地区。


各務(かがみ)区と呼ばれる人工都市に、円蓋型施設『KANAN』と呼ばれる、複合型遊園地がオープンした。


長年謎めいた閉鎖的地域だっただけに、連日詰めかける客で賑わう。


遊園地のオーナーは、元子爵の地位を持つ旧家の各務家。


協賛者は、成り上がりと名高い紫堂財閥。


最近エンターテイメント事業に手を染め始めたこの財閥は、話題性十分な施設の宣伝費に金をかけ、更には電脳界より口コミ客を大量に仕入れ…総資産を増大させた。


その施設発案者が、紫堂財閥次期当主で『気高き獅子』と畏怖される…17歳の少年で、5分にも満たぬ時間で見出した"苦肉の策"であったことは、傍で常日頃仕える者達しか知らぬことである。


彼の存在をかけた勝負の末に、"偶然"彼の居た塔が地面に陥没し、更には"偶然"砕かれ…結果勝負続行不能で引き分けとなってしまった。


己が勝ったと彼は言い、いや自分だと相手は言う。


永遠平行線の2人を制したのは、"偶然"現れた青い男と赤い女。


少女の連行許可の代わりに月半分の此の地の再訪問を提言した青い男に刃向かった彼は、月2度の"新施設訪問"で了承した。


誰もが笑顔で賑わい、世俗で"楽園"と呼ばれる場所。


そこでならば、その場所が好物の少女の注意が、いつもそちらに向くだろうとの発案だった。


そして、かつて"約束の地(カナン)"と呼ばれたその地に、1つだけ残る魔方陣と呼ばれる闇の布陣の為に、年を取ることも死ぬことも叶わぬ…永遠なる子供である者達への、せめてもの慰安に。


それでも彼らは判っている。


魔方陣が複数在った故の"蘇生"であらば、単体しかない現況において、その効力はいつ薄れるやもしれぬと。


滅ぶのがいつかは判らない。急激なのか緩やかなのか。


だが、それはまた"生者"も同じこと。


ならば生者と共存できる土地にと…そこまでの紫堂財閥の御曹司の配慮があったことは、色彩強い男女のみ知る処であり…それが特に、死者を火にくべ、"人として"葬った赤い女の強い望みであったことは、誰にも知らぬ処である。
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