あひるの仔に天使の羽根を

・逡巡 玲Side

 玲Side
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行けども行けども果てのない白銀の迷宮を、僕は彷徨っていた。


四方八方に拡がる鏡の迷路は、逡巡の色濃く流離(さすら)い続ける小さい僕が映っている。



どれが僕?


どれが偽物?



見分けがつかない曖昧な世界で、僕は必死に歩いて行く。



――さすがは玲様、文武両道で。


――これからの紫堂を担うのは、玲様しかおりますまい。


――眉目秀麗、誰からも愛される玲様は紫堂の誇りだ。



過去幾度も耳にした、亡者達の声が響いてくる。


ホントウノボクヲシラナイクセニ。



笑う、笑う、笑う。


その声を多く得る為に、僕は笑い続ける。


誰からも望まれるために、僕は愛される僕を演じ続ける。


何故?


答えは簡単。


"1人は寂しいから"



満たされることのない僕の心。


賞賛されれば逆に冷えていく僕の心。



ホントウノボクニキヅイテヨ。



"僕"を必要とされたかった。


どんな僕でも、僕だからという理由で欲して貰いたかった。


人間として、子供として、男として。


僕の中に流れるのは気狂いの血。


次期当主の肩書きを失い、権力を失った母親が呪言と呪われた血で櫂の就任式を穢した途端、一斉に僕に向けられた蔑んだ眼差し。


それまで僕に媚びへつらっていた者達が手のひらを返した。


気狂いを排除せよ。

危険分子を排除せよ。

紫堂の真の跡取りは別に居る。


僕は誰にも必要とされていなかった。


僕は全てを失った。


否。


何も手に入れていなかったことに気づいた。


地位も名誉も家族も愛さえも。





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